ROWS オワリのハジマリ
2008/12/08 23:57:30
プロンテラの某クレさんに、ROWS楽しみにしてたとかいわれて、
しかし書く気力が(もうネタ半ば忘れていたからなぁ)なくなっていたもんで、
とりあえずのけじめとして、終わらせる為の筆を、取ってみました。
そのうちまた日記としてのShortStoryを書こうとは思ってるので、
楽しみにしたりしなかったりで、どうぞよろしくです。
やっぱりネタは、仕事中の方が降って涌くモンだわ…>w<);;
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しかし書く気力が(もうネタ半ば忘れていたからなぁ)なくなっていたもんで、
とりあえずのけじめとして、終わらせる為の筆を、取ってみました。
そのうちまた日記としてのShortStoryを書こうとは思ってるので、
楽しみにしたりしなかったりで、どうぞよろしくです。
やっぱりネタは、仕事中の方が降って涌くモンだわ…>w<);;
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新たな旅の始まり -追録-
私はフェン=ガルーダイン。
かなり長い時間が空いてしまった。
先のアルナベルツ教国の首都、ラヘルを中心に起こった大きな事件については、
記録の大半を依頼人であるミールガルに奪われ、
また関係3ヶ国、そしてアサシンギルドに状況報告ということで長いこと拘束されてしまい、
多くを語る事が出来なくなってしまっていた。
幸い時間が得られるようになったので、当時のことを思い出しつつ綴ってみようと思う。
以前壊滅させた、レゲンシュルム研究所の残党が首都ラヘルへ手を伸ばしている事を、
ラヘルの元大神官であったミールガルからの依頼により確信し、
私はその依頼を受け、ゲフェン、プロンテラで仲間を募り、ジェド大神官の手引きもあり、
禁じられていたラヘルの聖域へと向かうことに成功した。
そこにあったのは、無から有を生み出す、神の遺産…ユミルの心臓、のフェイク。
それらが数十機も据え付けられていたのを目の当たりにした。
ユミルの心臓を砕こうと、私達は各々に武器を構えた時、ニルエンという女神官に出会った。
ジェド大神官と派閥争いをしている女神官だそうで、
手引きをしたジェド大神官を追い落とす良い口実が出来たと嘯く彼女に対し、
私達は単刀直入に聖域の状況について、尋ねてみた。
ミールガルの妻であったらしき、存在が彷徨っていないかと。
「どこで聴いたのか判らないけれど、確かに手に負えない女が居るわ。死んだはずなのにね…」
「ここであなたたちを始末してもかまわないのよ? けれどアレを再び始末してくれるのなら話は別よ」
と、信者に対する営業的な笑みを浮かべながらニルエンの表情は語っていた。
ニルエン曰く、聖域とはユミルの心臓により綺麗な水を生み出すと共に、
それ自体に迷いの結界を成しているという。
たまたま、この最深部に繋がる時に私達が聖域に侵入してしまったため、
此処に到達してしまったという…何ともお粗末な結界だと感じた。
ともあれ、先ほどのニルエンとの協定で、聖域内を探索する許可を得、
文字通り迷い道による調査は難航したものの、一人の男が浮上してきた。
聖域は5層により構成されているらしいが、その内の便宜上3層と呼ばれている地域、
そこに近づくと、暴走したドッペルゲンガーが顕れる…
危険だからそこに立ち入るなと、触れ回った男…
ラヘルの神官達を信用させるために、ユミルの心臓のフェイクを持ち込み、
更にはタカ派にドッペルゲンガー発生装置を手配した、
レゲンシュルムの研究者、ホズル=ディラーク。
彼が、この騒動の黒幕と判明した。
ラヘルのタカ派連中にドッペルゲンガーを見せ手配をした際、
ホズルはミールガルがしきりにドッペルゲンガーのことを聴くので説明をした。
数日後、そこで何者かからラヘルの聖域を見に行ってみろという指示を受けたという。
その何者かは未だに不明なのだが…言われるままに何気に聖域を巡っていると、
ミールガルがドッペルゲンガーを作成している所を目撃する。
しかし、ドッペルゲンガーにはホストたる、生きた存在が必要となる、
そんなモノができるはず無いとたかをくくりつつ、物陰で様子を伺っていると
…なんと、一人の女性のドッペルゲンガーが完成してしまったのだという。
しかし、まさか創れるとは思っていないホズルは、ミールガルに制御装置のことを説明していなかった。
ややあって、感動の対面もそこそこに、彼女は暴走をし始め、ミールガルは慌てて逃げ出してしまう。
ホズルはたまたま装置を持っていたので、それにより制御し落ち着かせるも、
ふと思いついたことがあり、暴走状態に制御し続ける。
その思いついた事というのは、聖域を立ち入らせないようにし、
自身の研究をここで秘密裏に再開してやろうということだった。
ホズルの研究はドッペルゲンガーの変異体について。
レゲンシュルム研究所に居たジェミニを創ったのもこの男だという。
しかし、有機物をモチーフにしたドッペルは殆どが失敗(というか独創性無し)
唯一の成功例がジェミニであり、無機物をモチーフにしたものは、トリッキーな物となった。
私は私的にホズルの過去をもう少し洗ってみた。
ホズル自身の過去は有望な医師であった。
しかし、とある難病に抗する手段が無いことをきっかけに自暴自棄になり、
医師を棄て、錬金術に傾倒する。
そして救えないのなら、新たな存在を作り上げればという方向から、
ドッペルゲンガーの作成に寄与することとなる。
当時ドッペルゲンガーの作成は、レッケンベルのボルセブが行っていたが、
プロジェクトにはホズルも当然関与していた。
だから作成方法はホズル自身も熟知していたというわけだ。
しかし、ドッペルゲンガーを作り上げても、永久にそれが活動できるとはならず、
またそれを直すという方法は未だ確立していない。
元医師の歪んだ考えは、ドッペルゲンガーのエネルギーを補給する為の研究へと発展していった。
私達は、その研究を止めさせる為に、聖域3層へ向かうが、
そこにミールガルの妻のドッペルゲンガーが立ち塞がる。
激しい戦いの末、ミールガルの妻の制御装置を砕く事により、辛くも勝利を収める。
その時初めて、私達はミールガルの妻、サシャの真相を知る。
まず、制御装置を砕かれ、その身を相当損なわれているサシャ自身は直ることはないこと。
そしてホストである本人が死んでいる以上、サシャ自身は存在出来るはずのない存在であること、
可能性として、模造品ではなく本物のユミルの心臓が使われていたのではということ。
その理由として、模造品と本物の能力は天と地程の差があることが想像され、
ミールガルのはっきりした想いが、形を為したのではないかという仮説を、ホズルが呟いていたということ。
だとすると、そんなことがたまたま起こるはずはなく、
先にホズルに聖域へ行けと指示した何者かと、
この仕込みをした者は同一人物だろうとあたりは付けたものの、
真偽を確認する術は無いし、そもそもその人物が何者か全く判らないので、とりあえず放置することにした。
またホズルもその仮説から、ドッペルゲンガーの発生機構をくまなく探したものの、
フェイクのユミルの心臓しか見あたらなかったことも、ホズルは呟いていたらしい。
聴けることを聴き出し、最後にミールガルの想いを伝えると、サシャは、
「私はもう居ないのだから、私を追うことだけに人生を費やさないで。
貴方は貴方の出来ることにこそ、その力を向けるべきよ。
それでも、あの短い時間でも、逢えてよかったわ…。ありがとう…」
と言い残し、その姿をふっと消したのだった。
そして、私達は…聖域の第3層へと足を踏み入れた。
そこは、異形の巣窟だった。
あとでホズルの研究内容を調べる機会があったので、その異形について記してみる。
ジェミニ = 双子座 = 身体が出たり入ったり入れ替わる。珍しく成功した例。
2つのドッペルゲンガーを合成して成功。
アリーズ = 牡羊座 = ゴートベースのドッペルゲンガー
トーラス = 牡牛座 = ミノタウロスベースのドッペルゲンガー
キャンサー = 蟹座 = パッとしない、バドンのドッペルゲンガー
レオ = 獅子座 = キマイラのドッペルゲンガー
ヴァーゴ = 乙女座 = アリスらしきドッペルゲンガーだが、著しくデッサンが狂っている。
リーブラ = 天秤座 = 部屋の床に化けているドッペルゲンガー。突然斜めに起き上がり転げ落とす。
スコーピオ = 蠍座 = ギグのドッペルゲンガー
サジタリアス = 射手座 = アーチャーガーディアンの彫像ベース。稀代の傑作とホズルは自負していた。
カプリコーン = 山羊座 = バフォメット…jrのドッペルゲンガー。
ホズルは基本的に見たことの無いものは作れなかったらしい。
アクエリアス = 水瓶座 = 見た目ただの水瓶だが、突然人を包み込むように広がり覆い被さってくる。
犠牲者は中に閉じこめられ締め付けと中に満たされている水で溺死を狙う。
装甲は恐ろしく固い。
パイシーズ = 魚座 = 半漁人のドッペルゲンガー
これらは、ドッペルゲンガーは同質のモノでしか補修・埋めることが出来ないという、
その補修・研究の過程により生まれたものであった。
これらが、襲いかかってくる中、深奥へと進み、ついにホズルと対峙した。
既に、異形と彼も化していたのだが…
少し、ホズルの研究の内容に立ち戻ってみる。
あとでこれも調べたことだが、一度作り上げたドッペルゲンガーを、
何かと組み合わせるものがホズルの研究であり、
組み合わせることで、主たる存在からの隔絶を図ることが目的であった
(主たる存在が死ぬとドッペルゲンガーも消滅する為)
また、基本的にドッペルゲンガーには自我がない(サシャは特殊な事例と言えよう)
その組み合わせの結果としては、
他の生物と組み合わせる
=生物も自我を失い、ドッペルゲンガーのスキルも失い、その生物の能力に依存する。
他の物体と組み合わせる
=元々自我はない。ドッペルゲンガーはその物体に擬態する能力を得る。
同様に擬態した形に能力は制限される
(例えば天秤座・水瓶座は見た目が床だったり瓶だったりするので、
道具を持つ等の行動はとれない)
以上であったらしい。
なお、ドッペルゲンガー同士を組み合わせることでの成功事例は、繰り返しになるがジェミニのみとのこと。
対峙したホズル自身はドッペルゲンガーの欠損を、我が身で埋めていた。
すなわち成功事例であるジェミニとサジタリアスと、ホズルの融合。
自身を彼はパイシーズ…蛇遣い座と呼称していた。
実践による実験を実践するんだと、わめきつつ襲いかかってきた。
戦力は、アサシンクロスである私と、シルヴィート。
ハイプリーストのミュナ、そしてアルケミストの鈴屋の4人。
奴の驚異は攻撃力に非ず、むしろ無限とも言える耐久力にあった。
ドッペルゲンガーは同質のものでしか埋められない。
自らがドッペルゲンガーを吸収し、自らを削り補修し、更に戦わせるために生み出す。
その繰り返しで、私達を疲弊させていった。
いわば、一人で大量の群。そしてその全ては死なないのだ。
本体であるホズルを狙おうにも、全ての攻撃のダメージが、
周りのドッペルゲンガーが肩代わりされ、ホズルには一発も届かない。
気力を挫かれる戦い方に、疲労もピークであった。
基本的に1対1での戦いが信条のメンバーであるが故に、限界は程なくやってくる。
大量の敵に一時的に穴をあけ、直接攻撃をホズルに届かせる必要がある。
ここに来て、私は禁じ手としていた猛毒瓶を用いたエンチャントデットリーポイズンを解禁した。
鈴屋がコレが最後と、スフィアマインによる爆風で敵を散らし、
敵の壁が薄まったところに、私が猛毒を付着させた渾身のグリムトゥースを放つ。
建ち上がる巨大な岩槍。そこにシルヴィートが駆け上り、同時にミュナの支援が飛ぶ!
手持ちで数少ない範囲攻撃により群れに穴の開いたそこへ、シルヴィートが飛び込み、
ソウルブレイカーによる一閃がホズルに吸い込まれる。
無限かと思われた、ドッペルゲンガーの吸収と再生は、
結局のところホズルの身を削っていたわけで、
ソウルブレイカーによる一撃は、無理な合成に歪みを生じさせるのに十分だった。
倒れたときにホズルが呟いた、
「この研究成果、持ち出したかったなぁ…そうしたら全ての………救われるのに……」
が、何を救おうとしていたのか…それが少し、気になった。
ともあれこうして、戦いは終わり、皆に協力の礼をして別れ、
旅の中での結果をミールガルに伝えにいったところで、私は手記を奪われた。
結局ミールガル自身も保守派…開国することに否定の立場だったわけだ。
内情を知りすぎた私から、手記を奪うことでその秘匿に努めたかったのだろう。
サシャの思いは…多分伝わっていないんだろうな、と心の中でふと思った。
まぁ、こうして私が生きている以上、概略はこうやって新たに書き起こす事が出来たわけだが。
真相は未だわからないことがある。
果たして本物のユミルの心臓が、そこにあったのか。
それを持ち込んだ者は何者なのか。
世界を旅していれば、いつしかまたそういった場面に出くわすことが出来るのだろうか。
私は、未だ独り、旅を続けている。
風の吹くまま、気の向くまま……
私はフェン=ガルーダイン。
かなり長い時間が空いてしまった。
先のアルナベルツ教国の首都、ラヘルを中心に起こった大きな事件については、
記録の大半を依頼人であるミールガルに奪われ、
また関係3ヶ国、そしてアサシンギルドに状況報告ということで長いこと拘束されてしまい、
多くを語る事が出来なくなってしまっていた。
幸い時間が得られるようになったので、当時のことを思い出しつつ綴ってみようと思う。
以前壊滅させた、レゲンシュルム研究所の残党が首都ラヘルへ手を伸ばしている事を、
ラヘルの元大神官であったミールガルからの依頼により確信し、
私はその依頼を受け、ゲフェン、プロンテラで仲間を募り、ジェド大神官の手引きもあり、
禁じられていたラヘルの聖域へと向かうことに成功した。
そこにあったのは、無から有を生み出す、神の遺産…ユミルの心臓、のフェイク。
それらが数十機も据え付けられていたのを目の当たりにした。
ユミルの心臓を砕こうと、私達は各々に武器を構えた時、ニルエンという女神官に出会った。
ジェド大神官と派閥争いをしている女神官だそうで、
手引きをしたジェド大神官を追い落とす良い口実が出来たと嘯く彼女に対し、
私達は単刀直入に聖域の状況について、尋ねてみた。
ミールガルの妻であったらしき、存在が彷徨っていないかと。
「どこで聴いたのか判らないけれど、確かに手に負えない女が居るわ。死んだはずなのにね…」
「ここであなたたちを始末してもかまわないのよ? けれどアレを再び始末してくれるのなら話は別よ」
と、信者に対する営業的な笑みを浮かべながらニルエンの表情は語っていた。
ニルエン曰く、聖域とはユミルの心臓により綺麗な水を生み出すと共に、
それ自体に迷いの結界を成しているという。
たまたま、この最深部に繋がる時に私達が聖域に侵入してしまったため、
此処に到達してしまったという…何ともお粗末な結界だと感じた。
ともあれ、先ほどのニルエンとの協定で、聖域内を探索する許可を得、
文字通り迷い道による調査は難航したものの、一人の男が浮上してきた。
聖域は5層により構成されているらしいが、その内の便宜上3層と呼ばれている地域、
そこに近づくと、暴走したドッペルゲンガーが顕れる…
危険だからそこに立ち入るなと、触れ回った男…
ラヘルの神官達を信用させるために、ユミルの心臓のフェイクを持ち込み、
更にはタカ派にドッペルゲンガー発生装置を手配した、
レゲンシュルムの研究者、ホズル=ディラーク。
彼が、この騒動の黒幕と判明した。
ラヘルのタカ派連中にドッペルゲンガーを見せ手配をした際、
ホズルはミールガルがしきりにドッペルゲンガーのことを聴くので説明をした。
数日後、そこで何者かからラヘルの聖域を見に行ってみろという指示を受けたという。
その何者かは未だに不明なのだが…言われるままに何気に聖域を巡っていると、
ミールガルがドッペルゲンガーを作成している所を目撃する。
しかし、ドッペルゲンガーにはホストたる、生きた存在が必要となる、
そんなモノができるはず無いとたかをくくりつつ、物陰で様子を伺っていると
…なんと、一人の女性のドッペルゲンガーが完成してしまったのだという。
しかし、まさか創れるとは思っていないホズルは、ミールガルに制御装置のことを説明していなかった。
ややあって、感動の対面もそこそこに、彼女は暴走をし始め、ミールガルは慌てて逃げ出してしまう。
ホズルはたまたま装置を持っていたので、それにより制御し落ち着かせるも、
ふと思いついたことがあり、暴走状態に制御し続ける。
その思いついた事というのは、聖域を立ち入らせないようにし、
自身の研究をここで秘密裏に再開してやろうということだった。
ホズルの研究はドッペルゲンガーの変異体について。
レゲンシュルム研究所に居たジェミニを創ったのもこの男だという。
しかし、有機物をモチーフにしたドッペルは殆どが失敗(というか独創性無し)
唯一の成功例がジェミニであり、無機物をモチーフにしたものは、トリッキーな物となった。
私は私的にホズルの過去をもう少し洗ってみた。
ホズル自身の過去は有望な医師であった。
しかし、とある難病に抗する手段が無いことをきっかけに自暴自棄になり、
医師を棄て、錬金術に傾倒する。
そして救えないのなら、新たな存在を作り上げればという方向から、
ドッペルゲンガーの作成に寄与することとなる。
当時ドッペルゲンガーの作成は、レッケンベルのボルセブが行っていたが、
プロジェクトにはホズルも当然関与していた。
だから作成方法はホズル自身も熟知していたというわけだ。
しかし、ドッペルゲンガーを作り上げても、永久にそれが活動できるとはならず、
またそれを直すという方法は未だ確立していない。
元医師の歪んだ考えは、ドッペルゲンガーのエネルギーを補給する為の研究へと発展していった。
私達は、その研究を止めさせる為に、聖域3層へ向かうが、
そこにミールガルの妻のドッペルゲンガーが立ち塞がる。
激しい戦いの末、ミールガルの妻の制御装置を砕く事により、辛くも勝利を収める。
その時初めて、私達はミールガルの妻、サシャの真相を知る。
まず、制御装置を砕かれ、その身を相当損なわれているサシャ自身は直ることはないこと。
そしてホストである本人が死んでいる以上、サシャ自身は存在出来るはずのない存在であること、
可能性として、模造品ではなく本物のユミルの心臓が使われていたのではということ。
その理由として、模造品と本物の能力は天と地程の差があることが想像され、
ミールガルのはっきりした想いが、形を為したのではないかという仮説を、ホズルが呟いていたということ。
だとすると、そんなことがたまたま起こるはずはなく、
先にホズルに聖域へ行けと指示した何者かと、
この仕込みをした者は同一人物だろうとあたりは付けたものの、
真偽を確認する術は無いし、そもそもその人物が何者か全く判らないので、とりあえず放置することにした。
またホズルもその仮説から、ドッペルゲンガーの発生機構をくまなく探したものの、
フェイクのユミルの心臓しか見あたらなかったことも、ホズルは呟いていたらしい。
聴けることを聴き出し、最後にミールガルの想いを伝えると、サシャは、
「私はもう居ないのだから、私を追うことだけに人生を費やさないで。
貴方は貴方の出来ることにこそ、その力を向けるべきよ。
それでも、あの短い時間でも、逢えてよかったわ…。ありがとう…」
と言い残し、その姿をふっと消したのだった。
そして、私達は…聖域の第3層へと足を踏み入れた。
そこは、異形の巣窟だった。
あとでホズルの研究内容を調べる機会があったので、その異形について記してみる。
ジェミニ = 双子座 = 身体が出たり入ったり入れ替わる。珍しく成功した例。
2つのドッペルゲンガーを合成して成功。
アリーズ = 牡羊座 = ゴートベースのドッペルゲンガー
トーラス = 牡牛座 = ミノタウロスベースのドッペルゲンガー
キャンサー = 蟹座 = パッとしない、バドンのドッペルゲンガー
レオ = 獅子座 = キマイラのドッペルゲンガー
ヴァーゴ = 乙女座 = アリスらしきドッペルゲンガーだが、著しくデッサンが狂っている。
リーブラ = 天秤座 = 部屋の床に化けているドッペルゲンガー。突然斜めに起き上がり転げ落とす。
スコーピオ = 蠍座 = ギグのドッペルゲンガー
サジタリアス = 射手座 = アーチャーガーディアンの彫像ベース。稀代の傑作とホズルは自負していた。
カプリコーン = 山羊座 = バフォメット…jrのドッペルゲンガー。
ホズルは基本的に見たことの無いものは作れなかったらしい。
アクエリアス = 水瓶座 = 見た目ただの水瓶だが、突然人を包み込むように広がり覆い被さってくる。
犠牲者は中に閉じこめられ締め付けと中に満たされている水で溺死を狙う。
装甲は恐ろしく固い。
パイシーズ = 魚座 = 半漁人のドッペルゲンガー
これらは、ドッペルゲンガーは同質のモノでしか補修・埋めることが出来ないという、
その補修・研究の過程により生まれたものであった。
これらが、襲いかかってくる中、深奥へと進み、ついにホズルと対峙した。
既に、異形と彼も化していたのだが…
少し、ホズルの研究の内容に立ち戻ってみる。
あとでこれも調べたことだが、一度作り上げたドッペルゲンガーを、
何かと組み合わせるものがホズルの研究であり、
組み合わせることで、主たる存在からの隔絶を図ることが目的であった
(主たる存在が死ぬとドッペルゲンガーも消滅する為)
また、基本的にドッペルゲンガーには自我がない(サシャは特殊な事例と言えよう)
その組み合わせの結果としては、
他の生物と組み合わせる
=生物も自我を失い、ドッペルゲンガーのスキルも失い、その生物の能力に依存する。
他の物体と組み合わせる
=元々自我はない。ドッペルゲンガーはその物体に擬態する能力を得る。
同様に擬態した形に能力は制限される
(例えば天秤座・水瓶座は見た目が床だったり瓶だったりするので、
道具を持つ等の行動はとれない)
以上であったらしい。
なお、ドッペルゲンガー同士を組み合わせることでの成功事例は、繰り返しになるがジェミニのみとのこと。
対峙したホズル自身はドッペルゲンガーの欠損を、我が身で埋めていた。
すなわち成功事例であるジェミニとサジタリアスと、ホズルの融合。
自身を彼はパイシーズ…蛇遣い座と呼称していた。
実践による実験を実践するんだと、わめきつつ襲いかかってきた。
戦力は、アサシンクロスである私と、シルヴィート。
ハイプリーストのミュナ、そしてアルケミストの鈴屋の4人。
奴の驚異は攻撃力に非ず、むしろ無限とも言える耐久力にあった。
ドッペルゲンガーは同質のものでしか埋められない。
自らがドッペルゲンガーを吸収し、自らを削り補修し、更に戦わせるために生み出す。
その繰り返しで、私達を疲弊させていった。
いわば、一人で大量の群。そしてその全ては死なないのだ。
本体であるホズルを狙おうにも、全ての攻撃のダメージが、
周りのドッペルゲンガーが肩代わりされ、ホズルには一発も届かない。
気力を挫かれる戦い方に、疲労もピークであった。
基本的に1対1での戦いが信条のメンバーであるが故に、限界は程なくやってくる。
大量の敵に一時的に穴をあけ、直接攻撃をホズルに届かせる必要がある。
ここに来て、私は禁じ手としていた猛毒瓶を用いたエンチャントデットリーポイズンを解禁した。
鈴屋がコレが最後と、スフィアマインによる爆風で敵を散らし、
敵の壁が薄まったところに、私が猛毒を付着させた渾身のグリムトゥースを放つ。
建ち上がる巨大な岩槍。そこにシルヴィートが駆け上り、同時にミュナの支援が飛ぶ!
手持ちで数少ない範囲攻撃により群れに穴の開いたそこへ、シルヴィートが飛び込み、
ソウルブレイカーによる一閃がホズルに吸い込まれる。
無限かと思われた、ドッペルゲンガーの吸収と再生は、
結局のところホズルの身を削っていたわけで、
ソウルブレイカーによる一撃は、無理な合成に歪みを生じさせるのに十分だった。
倒れたときにホズルが呟いた、
「この研究成果、持ち出したかったなぁ…そうしたら全ての………救われるのに……」
が、何を救おうとしていたのか…それが少し、気になった。
ともあれこうして、戦いは終わり、皆に協力の礼をして別れ、
旅の中での結果をミールガルに伝えにいったところで、私は手記を奪われた。
結局ミールガル自身も保守派…開国することに否定の立場だったわけだ。
内情を知りすぎた私から、手記を奪うことでその秘匿に努めたかったのだろう。
サシャの思いは…多分伝わっていないんだろうな、と心の中でふと思った。
まぁ、こうして私が生きている以上、概略はこうやって新たに書き起こす事が出来たわけだが。
真相は未だわからないことがある。
果たして本物のユミルの心臓が、そこにあったのか。
それを持ち込んだ者は何者なのか。
世界を旅していれば、いつしかまたそういった場面に出くわすことが出来るのだろうか。
私は、未だ独り、旅を続けている。
風の吹くまま、気の向くまま……
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この記事へのコメント
ROWS Zwie 第5話……
2008/12/07 23:55:39
………
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失われし者の幻影 ~RO World Seeker Zwei~
第5話 未開の地に向けての勉強会
「う゛~…休みだったよ、クレープ屋さん」
首都といっても、恐ろしく広い所ではない。
人の往来は多いがそれはメインストリートだけであって、
それ以外はさほど混み合う訳でもない。
10数分の後、ミュナが半べそをかきつつ戻ってきた。
「そうかー。残念だったねぇ」
内心悪いことをしたなと思いつつ、
しかしそんな表情はおくびにも出さず私は迎えた。
「それじゃ、早速聞かせてよ」
「え?なになに?」
「あぁ、ミュナさんがいない間に…ちょっと話が進展して、
この鈴屋さんにも同行して貰おうかな…って思ってね」
「まだ行くと決まっては居ないけどね?
詳しいお話し聞かせて貰ってから…」
「だとしたら、フェン。場所を変えた方が?」
確かに。大っぴらに人に聞かせる話では無い。であれば…
「そうだな…ネンカラス亭に行くか。
あそこは一応馴染みだから、個室も準備して貰おう」
以前霧矢さんとロプトを伴って行った場所だ。
宿の従業員であるセミに伝えれば、個室の立入も禁じて貰えるはず。
そう考え私は、皆を伴ってネンカラス亭へと向かった。
* * *
「あらあら、フェンさん。ご無沙汰ねー?って
今度は女の子が3人も…ここは…」
「連れ込みじゃないから、安心して!」
前もこんな事言われたな…そういや。
「まさかそんなつもりじゃ…」
そして突き刺さる同行する3名からの視線。参ったな…
「ないない!セミ。こんな事言うから…まったく。
とにかくちょっと密談したいことがあるんだ。部屋を貸してくれ」
「ちょっと!言ったのはフェンさんでしょうに?」
言おうとしたことは多分同じだろうに、責任逃れをするなよと思ったが、
こんなくだらない事で揉めても仕方ない。
「そんなことは良いから貸してくれ。頼むから」
「はぁ~判ったわ。右奥の部屋、これ鍵よ。
1時間400ゼニーで、出る時に精算するわね。
ごゆっくり~」
結局妙な勘違いをかき立てるような台詞を言うんじゃないか…
と心の中で毒づきつつ、鍵を受け取る。
「それじゃ、こっちだ」
私は3人を促しつつ、奥の部屋へと通した。
* * *
部屋の中には簡素な木造のテーブルと椅子。
3人が部屋に入り切ったところで、
「あぁ、誰か鍵閉めてくれ。
そしたら何処でも良いから、座って楽にしてくれるかな」
「うん」
「わかった」
「了解っと。鍵閉めるよー?」
ガチャッ
鍵が閉まる。
冒険者向けでない安宿であればいざ知らず、
このような冒険者向けの宿においては、比較的壁の厚さがそれなりにある。
これで周りに気兼ねなく話をすることができようものだ。
「さてと…何から話そうかな」
「じゃあユミルの心臓について教えて貰えるかな?」
鈴屋にとって、まず聞きたいところは此処なのだろう。
「わかった。
そもそも、ユミルの心臓について、聞いたことはあるかな?」
ふるふる、とミュナとシルヴィートは首を振った。やはり知らないようだ。
「何か凄い力がある物とだけ、聞いたことがあるんだよね。
だから、錬金術に使えないかなって思ったのよ」
唯一、それについて調べようとしていた鈴屋だけが、私の問いに答えた。
しかし、その答えも存在を知っているというだけ。
その力の指向性については全く知らないようだった。
「なるほどね。錬金術師ギルドから話しでも漏れたのかしらん?
とりあえず、凄い力があるというのは本当。
ただ、錬金術に使えるかどうかは…
まぁ私がそちらの知識がないからかもだけれど、できるのかなぁ?」
「というと?」
「ユミルの心臓ってのは、使い方次第だけども、
無限に力を抽出することのできる…それこそ、無から有を生み出せる、
アーティファクトだと、私は思っているんだ」
今まで私が見てきた、ユミルの心臓に絡むものは、
全てが全て、強大なエネルギーを何らかの形に流用したものだった。
研究資料を全て把握してきたわけではないが、おおむねそういった研究だと推測できる。
「それは非常に危険な物に聞こえるが?
人の手には余る印象しか残らない。シルフィの勘はあたったようだ」
「それが、以外と私達の身近でも使われている技術ではあるんだな、これが」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
手記は此処で破りとられている…
第5話 未開の地に向けての勉強会
「う゛~…休みだったよ、クレープ屋さん」
首都といっても、恐ろしく広い所ではない。
人の往来は多いがそれはメインストリートだけであって、
それ以外はさほど混み合う訳でもない。
10数分の後、ミュナが半べそをかきつつ戻ってきた。
「そうかー。残念だったねぇ」
内心悪いことをしたなと思いつつ、
しかしそんな表情はおくびにも出さず私は迎えた。
「それじゃ、早速聞かせてよ」
「え?なになに?」
「あぁ、ミュナさんがいない間に…ちょっと話が進展して、
この鈴屋さんにも同行して貰おうかな…って思ってね」
「まだ行くと決まっては居ないけどね?
詳しいお話し聞かせて貰ってから…」
「だとしたら、フェン。場所を変えた方が?」
確かに。大っぴらに人に聞かせる話では無い。であれば…
「そうだな…ネンカラス亭に行くか。
あそこは一応馴染みだから、個室も準備して貰おう」
以前霧矢さんとロプトを伴って行った場所だ。
宿の従業員であるセミに伝えれば、個室の立入も禁じて貰えるはず。
そう考え私は、皆を伴ってネンカラス亭へと向かった。
* * *
「あらあら、フェンさん。ご無沙汰ねー?って
今度は女の子が3人も…ここは…」
「連れ込みじゃないから、安心して!」
前もこんな事言われたな…そういや。
「まさかそんなつもりじゃ…」
そして突き刺さる同行する3名からの視線。参ったな…
「ないない!セミ。こんな事言うから…まったく。
とにかくちょっと密談したいことがあるんだ。部屋を貸してくれ」
「ちょっと!言ったのはフェンさんでしょうに?」
言おうとしたことは多分同じだろうに、責任逃れをするなよと思ったが、
こんなくだらない事で揉めても仕方ない。
「そんなことは良いから貸してくれ。頼むから」
「はぁ~判ったわ。右奥の部屋、これ鍵よ。
1時間400ゼニーで、出る時に精算するわね。
ごゆっくり~」
結局妙な勘違いをかき立てるような台詞を言うんじゃないか…
と心の中で毒づきつつ、鍵を受け取る。
「それじゃ、こっちだ」
私は3人を促しつつ、奥の部屋へと通した。
* * *
部屋の中には簡素な木造のテーブルと椅子。
3人が部屋に入り切ったところで、
「あぁ、誰か鍵閉めてくれ。
そしたら何処でも良いから、座って楽にしてくれるかな」
「うん」
「わかった」
「了解っと。鍵閉めるよー?」
ガチャッ
鍵が閉まる。
冒険者向けでない安宿であればいざ知らず、
このような冒険者向けの宿においては、比較的壁の厚さがそれなりにある。
これで周りに気兼ねなく話をすることができようものだ。
「さてと…何から話そうかな」
「じゃあユミルの心臓について教えて貰えるかな?」
鈴屋にとって、まず聞きたいところは此処なのだろう。
「わかった。
そもそも、ユミルの心臓について、聞いたことはあるかな?」
ふるふる、とミュナとシルヴィートは首を振った。やはり知らないようだ。
「何か凄い力がある物とだけ、聞いたことがあるんだよね。
だから、錬金術に使えないかなって思ったのよ」
唯一、それについて調べようとしていた鈴屋だけが、私の問いに答えた。
しかし、その答えも存在を知っているというだけ。
その力の指向性については全く知らないようだった。
「なるほどね。錬金術師ギルドから話しでも漏れたのかしらん?
とりあえず、凄い力があるというのは本当。
ただ、錬金術に使えるかどうかは…
まぁ私がそちらの知識がないからかもだけれど、できるのかなぁ?」
「というと?」
「ユミルの心臓ってのは、使い方次第だけども、
無限に力を抽出することのできる…それこそ、無から有を生み出せる、
アーティファクトだと、私は思っているんだ」
今まで私が見てきた、ユミルの心臓に絡むものは、
全てが全て、強大なエネルギーを何らかの形に流用したものだった。
研究資料を全て把握してきたわけではないが、おおむねそういった研究だと推測できる。
「それは非常に危険な物に聞こえるが?
人の手には余る印象しか残らない。シルフィの勘はあたったようだ」
「それが、以外と私達の身近でも使われている技術ではあるんだな、これが」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
手記は此処で破りとられている…
この記事へのコメント
ROWS Zwie 第4話目ですね。
2008/02/15 02:29:56
仕事はようやくピークにはいりました。
残業嫌いな私には、マジ勘弁でございます。
残業のせいで、バレンタイン風味のパフェを食べ損なったことについて、非常に凹んでます。
あぁ、チョコは…まぁ、聴くな。貰わなければ、ホワイトデーのお返しも関係ないからな!
金銭面的に楽でヨロシ。 そりゃ貰えたら嬉しいがねぇ…(遠い目
まぁ、そんなことはどうでもよく。
忙しさは数ヶ月前よりダンチになりそうですわ。
ぶっちゃけ、この忙しい中、休日出勤命じられたし…
(今月は毎週1日必ず休日出勤してることになってますよ>、<;)
そんななか、時間見てギリギリ書いていたROWSでございます。
相変わらず推敲も何もする余裕無く(仕事に余裕が無いのだから当然)
現在2:17。
とりあえずは、まとまってきたのでアップしちゃいます。見切り発車も良いところだ。
関係各位の方々にゃ、ご迷惑をおかけします。キャラをうごかしまくって(TーT
では、期待せずに、ゆるりと見てやってくださいな。
いつか、ちゃんと推敲してアップしなおしたいや(汗
▼続きを読む▼
残業嫌いな私には、マジ勘弁でございます。
残業のせいで、バレンタイン風味のパフェを食べ損なったことについて、非常に凹んでます。
あぁ、チョコは…まぁ、聴くな。貰わなければ、ホワイトデーのお返しも関係ないからな!
金銭面的に楽でヨロシ。 そりゃ貰えたら嬉しいがねぇ…(遠い目
まぁ、そんなことはどうでもよく。
忙しさは数ヶ月前よりダンチになりそうですわ。
ぶっちゃけ、この忙しい中、休日出勤命じられたし…
(今月は毎週1日必ず休日出勤してることになってますよ>、<;)
そんななか、時間見てギリギリ書いていたROWSでございます。
相変わらず推敲も何もする余裕無く(仕事に余裕が無いのだから当然)
現在2:17。
とりあえずは、まとまってきたのでアップしちゃいます。見切り発車も良いところだ。
関係各位の方々にゃ、ご迷惑をおかけします。キャラをうごかしまくって(TーT
では、期待せずに、ゆるりと見てやってくださいな。
いつか、ちゃんと推敲してアップしなおしたいや(汗
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失われし者の幻影 ~RO World Seeker Zwei~
第4話 戦う露店商
私達、3人はシルフィのワープポータルに乗り、
プロンテラの街中…通称精算広場に飛ばされた。
蝶の羽の転移と違い、こちらはさすがは神の奇跡と言うべきか、
不快感は全くない。
「それで、ここからイズルードに向かうようになるか…」
「何言ってるの、シルヴィ?
フェンさんが言ってた、新しいクレープ屋さん探しに行くのよ」
「あぁ、そうだっけか。今日居るとも限らないんだけどなぁ…
シルヴィートさんも、いいかい?」
「あんまり、興味はないのだけれど…折角だから」
「じゃあ決まりってことで。おいで、ブルネット?」
そう言うと、いつの間にか地面に降りていた茶色の猫が、
ミュナの足下から駆け上がり、頭の上に乗り、垂れる。
「呼ぶとちゃんと来るんだなぁ」
「そこら辺の猫とは、ちょっと違うのよね、ウチの子は♪
じゃ行きましょー?」
当初の目的の前に、まずは手付けとして先払いを示す必要があるようだ。
まぁ、菓子自体は大した額ではないし、
それで気持ちよく同行して貰えるのであれば、それに越したことはない。
私も久しく食べていないから、私自身食べたいというのも、内心あるわけだが。
辺りでは臨時公平の狩りから帰ってきたばかりなのだろう。
手に入れた収集品やゼニーの分配を行っている冒険者の一団が、2,3ヶ所見受けられる。
プロンテラ西門へ向かうため、賑やかな雰囲気の精算広場を通り抜け、
私達の歩みはアルケミストリートへと差し掛かった。
* * *
アルケミストリートの話をする前に、プロンテラの露店商の有り様を記しておこうと思う。
プロンテラの露店は、主に南に集中している。
特にプロンテラの内区と外区を隔てる壁に沿ってある、通称十字路と呼ばれる地域においては、
非常にレアな品々(べらぼうに高価である)が良く並び、
またその西側においては、その価格と比較して、直接売り買いをしたいという意図で、
『○○ △ゼニーで買います』『売ります』と看板を建て、商いをやっている者も居る。
かくいう私も、どうしても欲しいものはこの手段で手に入れている事が多い。
この十字路を東に行けば、今は既に廃れてしまった製造横町…
かつてブラックスミス達が、己が技量を磨いてた場所。
属性武器が欲しい者は、幾何かの手数料と、自ら集めた材料を持込み、
それらの製造をお願いしていた。
今では物が溢れ、また完成品が世に横行しまくっているため、
もしくは、そういった腕利きのブラックスミス達が、ギルドに囲い込まれたため、
作ってもらうという場面は大幅に減ってしまい、今はこの有様というわけだ。
そして、十字路を西に道なりに向かうと…そこにアルケミストリートがある。
アルケミストリートは、製造する場というよりは、製造するための材料を提供しあう場だった。
かつての製造横町が、物の作成を依頼する…消費者向けの場だとすれば、
アルケミストリートは、アルケミストの為の相互扶助の場であったとも言える。
だから、此処で物を売っているのは、アルケミストとも限らないというのが通説であった。
今は比較的アルケミストが集まって、製造品を売ってみたり、
あとは大抵談笑で始まり談笑で終わる場所と化している。
勿論立ち寄るメンバーはアルケミストに限らない。
最近では喫茶店…確か店長は宵星さんと言ったか…まであるぐらいだ。
軽食(といいつつ、材料がいいから比較的高め)や、ポーションブレンドドリンクを作ってるらしく。
氏もアルケミストだから、きっと調合する感じで厳密に量って飲み物を作っているに違いない。
* * *
しかし、今日のアルケミストリートは普段の和気藹々とした雰囲気とは全く違っていた。
街中で古木の枝を折って輩が居たのだろう。
それも、運悪くポリンのような危険の少ない相手ではなく、
そこに居たのは深淵の騎士だった。
露店を広げていて、思うように動けなかった商人達(主にアルケミストだったが)は、
皆石畳の上に倒れ伏し、その場に立っていたのは、
マジェスティックゴートを被ったクリエイター1人と、フィーリルが1匹だった。
アルケミストリートはプロンテラの中でも、人通りの少ない所でもある。
まだ通報がプロンテラ騎士団へ為されていないのだろう。
そこに私達が通りかかったというわけだ。
フィーリルを深淵の騎士に張り付かせ…
「ぇい!」
曲刀を振るって躍り掛かる。
高い回避力を誇るフィーリルが相手を攪乱し、
「てぁっ!」
ガチャン!ボォォォッ
ヒヒヒーン!
隙を狙って足下へ火炎瓶投げるのも忘れない。
立ち上る火柱に巻かれると、黒馬が苦悶の嘶きを上げた。
「なかなかやるな…あのクリエイター」
「でも、そろそろ支援してあげないと危ないと思…」
ミュナがそう呟いた次の瞬間、振り回されるランス…
深淵の騎士のブランディッシュスピアに、クリエイターが捕らえられた!
「ふぎゃっ!」
少々情けない声をあげつつ吹き飛ばされてきた小柄なクリエイターに、私は見覚えがあった。
「…あれは…鈴屋さんじゃないか!
ミュナさん手当を頼む!シルヴィートさん、いくぞ!」
「任せて!」
「……」
無言で頷き、弾けるように駆け出すシルヴィートと共に、
私達は槍を構える深淵の騎士の前に立ち塞がった。
鈴屋を守ろうと必死なフィーリルではあったが、
主が倒れると戦意を喪失し、深淵の騎士の注意を惹くのを止めてしまった。
深淵の騎士は駆け寄ってきた私達の方へ向き直ると、再び槍を振り上げた!
「今!」
シルヴィートが小さく叫ぶ。
今度は私が頷き、槍が最大の力で振り回せない位置へと踏み込む。
そして、ほぼゼロ距離から…二人でソウルブレイカーを放つ!
『どどぅぅぅぅぅぅぅぅん!』』
一撃が非常に重くとも、動きが緩慢な深淵の騎士だからこそ、隙がある。
懐から放たれたソウルブレイカーは、深淵の騎士を一撃…いや、二撃で消滅させた。
デモンストレーションや、フィーリルの攻撃でそこそこに消耗していたらしい。
追撃がもう1,2回ほど必要かと思っていたが、そこまで至らず幸いだった。
* * *
「どうだい?様子は…」
よもや死んでしまったのでは?と思えるぐらいに、見事な吹き飛び方だったので、
心配をしつつミュナに訊ねる。
「怪我はとりあえず癒したけどね?気を失ってるだけだと思う」
「そうか…よかった」
「フェン?さっき覚えのあるような言い方をしていたが、彼女とはどんな?」
シルヴィートが聴いてきた。
まぁ、無理もない。彼女たちはこの女性のことは知らないのだから。
「彼女は…鈴屋さん、といっても私も屋号で呼んでるだけで、本名は知らないんだが、
まぁ…店の人と、その客って言う程度…勿論色々談笑も交わしてはいるが…。
目の前であんな事になってたら、手を貸さないわけにはいかないだろう?
知らぬ仲ではないから…ああ、勿論二人にはあまり関係のない事だが。
成り行きとはいえ、巻き込んで済まなかった」
「ふーん…まぁ、私もそう思ったから、別に気にしてないよ?
ところで、此処に倒れてた人達は、とりあえず還ってしまったっぽい。
リザレクション間に合わなかったよ」
還って…というのは、魂が還り、別の場所で再生をしているだろう…ということだ。
冒険者は冒険の中で、傷つき倒れ伏したときにのみ、
オーディン神の加護によるものか、あらかじめ決めておいた場所で再生することが出来る。
体験した記憶、経験の喪失と、死の恐怖、激しい痛みを体験することになるわけだが。
このような町中においては、経験などの喪失はなく、ただ再生だけが行われる。
多分、気を取り戻せば、じきに消えた連中もまた戻ってくるだろう。
しかしこの場においてのみ考えるとするならば、
鈴屋とフィーリルだけが、今の騒動について知りうる、
この場に存在する唯一の証人というわけだ。
* * *
5分ほど経って、ようやく鈴屋は目を覚ました。
「あれ?私ってば…??」
どうやら事態が飲み込めていないらしい。
まぁ、起きたら見知らぬ連中に取り囲まれているのだから、無理もない。
しかし、辺りを見回して私の存在に気づくと、
「あぁ、フェンさんじゃないのよ。お久しぶり。
もしかして助けられたっぽい?」
あっけらかんとして、話しかけてくる。
「たまたま通りかかってねぇ…なんでまた深淵の騎士なんかに襲われてたのさ?」
「ええっとね…普通にお店開いてたのよ。
そしたら、近くの店の人がお客に難癖付けられて、その仲裁に入ったら…」
「枝折られたの?酷いなーそれ」
「まあ…最近そんな短絡的な奴が増えてるとも聞く。
出来るならば召喚された深淵の騎士なんかでなく、直接その本人を…」
「確かに酷いなーうん」
慌てて私はシルヴィートの言葉を遮る。
多分続く言葉は、直接本人をどうにかしてややれば、とか言う内容だろう。
正義感…というわけでもないのだろうけれど、
どちらかといえば私よりよっぽど暗殺者らしい存在の彼女だ。
暗殺を表向きよしとしていない王国の首都で、不穏当な言動は秘する方が良い。
シルヴィートもそれを察したのか、口をつぐみ頷いた。
「それで、あなたたちも命の恩人ですよね?
助かりました。ありがとうございます」
屈託もない笑顔で、鈴屋はミュナとシルヴィートに礼を言う。
「いえいえ。困ってる人を助けるのは聖職者としての務めです。
気にしないで…もし、気にしてくれるのだったら…」
「だったら??」
「そろそろ、クレープ買いに行って良いかなぁー?」
ミュナの発した言葉に、皆一瞬目が点になる。
そして、辺りに笑い声がこだました。
「ぶっ!」
「…ふふっ」
「あははははは!
私は大丈夫。行ってらっしゃい~」
「じゃお言葉に甘えて♪
西門前だったよね!シルヴィは?」
「いや、私はいい」
「じゃ、行ってくるっ!」
言うや否や、ミュナは速度上昇の奇跡を我が身に願うと、
一目散に駆け出していったのだった。
* * *
「だけど、珍しいよね。フェンさんが人連れているなんて。
確か連れだってたのって…奥さんっぽい人と一緒だったの見たっきり…」
「それは、違う人だと思うよ?多分臨時で会った人だと思う」
と、言葉をまた遮ってみる。
実際違わないのだけれど、あまり結婚してるとか言うのは大っぴらに言いたくないのだ。
気恥ずかしいから。
「そうだっけ?まぁいいや。
珍しいから何かあるのかなって、思って…ピピーンと来たんだ、何となく」
いつも思う事だが、女の勘というのは恐ろしい。
根拠もなく言い当てたりするものだから。
「いや、特に何もないよ?
ただのゲフェンタワー繋がりの同行者。
以前言わなかったけかな?ゲフェンにも私が寄るたまり場が有るって」
「ふーん…そうかぁ。
まぁ、私の気のせいかもだし。
そうそう、今ねちょっと研究というか、調べたいモノがあるんだ。
ユミルの心臓っていうの?よくわからないんだけど…」
「っ!」
「…?」
まさか、ここでその話題がでてくるとは思わなかった。
鈴屋は何処までユミルの心臓のことについて知っているのか。
シルヴィートも私の表情が変わった事に気付いたようだ。
シルヴィートはまぁ…同行するからおいおい話すから良いとしても、
鈴屋は…関係しないのだから、ここで旅の経緯を話す必要性は無い。
しかし既に何か調べで気付いてしまわれると…やっぱり具合はよろしくない。
調べる課程で、変な場面で出会ったりするぐらいなら…
「…何処で知ったんだい?」
「本で読んだんだ。でも何か凄いモノだって事ぐらいしか書いてなくて、
色んな所あるってるフェンさんなら、聴いたことあるかなぁって。
やっぱり知ってるの?」
「多分…」
「フェン。私達が同行している事にも関係が…?」
「ああ。少なからずある事だ。
もうこうなったら巻き込むしか、ないか」
私は一息ついて、言った。
「鈴屋さん?」
「は、はいっ!?」
突然名前を呼ばれて、鈴屋の声がうわずる。
「本気でこのこと知りたい気、あるなら…来るかい?
多分危険な旅になると思うんだが…
私が知ってる範囲で有れば教えるし、
旅の課程でまず間違いなく関連するモノに出くわすはずだよ」
変な場面で私達と出くわすなら、まだ良い。
好奇心旺盛な彼女のことだ。
突っ走って変な相手と鈴屋が出くわして、酷い目に遭わないとも限らない。
とりあえず、調べる気があるならば、
その意欲が萎えるまで目の届くところに居て貰った方が、
押しつけがましいとは思いつつも、寝覚めの悪い事にならないのでは、と思ったのだ。
「危険かぁ…まぁ、とりあえず先に話し聴かせてもらってからかな?
どんな事か判らないのに、投資は出来ないから。
あ、でも…ユミルの心臓については教えて貰いたいけどね」
まぁ、当然の答えだ。
冒険だからといって、危険に自ら飛び込んでいくという人の方が、
私はあまり信用ならないと感じる。
一歩引いて状況を見定めるぐらいでないと。
「わかった。
じゃあミュナさんが戻ってきてから、とりあえずの状況を話そう。
出来れば手伝って貰いたいんだけれども、ね?」
多分、直ぐにでもミュナは戻ってくるだろう。
今思い出したが、確か今日は…件の店は定休日だったはずだから。
(私だけ)悪い事をしたなぁ…と思いつつ、私達はミュナの帰りを待つのだった。
第4話 戦う露店商
私達、3人はシルフィのワープポータルに乗り、
プロンテラの街中…通称精算広場に飛ばされた。
蝶の羽の転移と違い、こちらはさすがは神の奇跡と言うべきか、
不快感は全くない。
「それで、ここからイズルードに向かうようになるか…」
「何言ってるの、シルヴィ?
フェンさんが言ってた、新しいクレープ屋さん探しに行くのよ」
「あぁ、そうだっけか。今日居るとも限らないんだけどなぁ…
シルヴィートさんも、いいかい?」
「あんまり、興味はないのだけれど…折角だから」
「じゃあ決まりってことで。おいで、ブルネット?」
そう言うと、いつの間にか地面に降りていた茶色の猫が、
ミュナの足下から駆け上がり、頭の上に乗り、垂れる。
「呼ぶとちゃんと来るんだなぁ」
「そこら辺の猫とは、ちょっと違うのよね、ウチの子は♪
じゃ行きましょー?」
当初の目的の前に、まずは手付けとして先払いを示す必要があるようだ。
まぁ、菓子自体は大した額ではないし、
それで気持ちよく同行して貰えるのであれば、それに越したことはない。
私も久しく食べていないから、私自身食べたいというのも、内心あるわけだが。
辺りでは臨時公平の狩りから帰ってきたばかりなのだろう。
手に入れた収集品やゼニーの分配を行っている冒険者の一団が、2,3ヶ所見受けられる。
プロンテラ西門へ向かうため、賑やかな雰囲気の精算広場を通り抜け、
私達の歩みはアルケミストリートへと差し掛かった。
* * *
アルケミストリートの話をする前に、プロンテラの露店商の有り様を記しておこうと思う。
プロンテラの露店は、主に南に集中している。
特にプロンテラの内区と外区を隔てる壁に沿ってある、通称十字路と呼ばれる地域においては、
非常にレアな品々(べらぼうに高価である)が良く並び、
またその西側においては、その価格と比較して、直接売り買いをしたいという意図で、
『○○ △ゼニーで買います』『売ります』と看板を建て、商いをやっている者も居る。
かくいう私も、どうしても欲しいものはこの手段で手に入れている事が多い。
この十字路を東に行けば、今は既に廃れてしまった製造横町…
かつてブラックスミス達が、己が技量を磨いてた場所。
属性武器が欲しい者は、幾何かの手数料と、自ら集めた材料を持込み、
それらの製造をお願いしていた。
今では物が溢れ、また完成品が世に横行しまくっているため、
もしくは、そういった腕利きのブラックスミス達が、ギルドに囲い込まれたため、
作ってもらうという場面は大幅に減ってしまい、今はこの有様というわけだ。
そして、十字路を西に道なりに向かうと…そこにアルケミストリートがある。
アルケミストリートは、製造する場というよりは、製造するための材料を提供しあう場だった。
かつての製造横町が、物の作成を依頼する…消費者向けの場だとすれば、
アルケミストリートは、アルケミストの為の相互扶助の場であったとも言える。
だから、此処で物を売っているのは、アルケミストとも限らないというのが通説であった。
今は比較的アルケミストが集まって、製造品を売ってみたり、
あとは大抵談笑で始まり談笑で終わる場所と化している。
勿論立ち寄るメンバーはアルケミストに限らない。
最近では喫茶店…確か店長は宵星さんと言ったか…まであるぐらいだ。
軽食(といいつつ、材料がいいから比較的高め)や、ポーションブレンドドリンクを作ってるらしく。
氏もアルケミストだから、きっと調合する感じで厳密に量って飲み物を作っているに違いない。
* * *
しかし、今日のアルケミストリートは普段の和気藹々とした雰囲気とは全く違っていた。
街中で古木の枝を折って輩が居たのだろう。
それも、運悪くポリンのような危険の少ない相手ではなく、
そこに居たのは深淵の騎士だった。
露店を広げていて、思うように動けなかった商人達(主にアルケミストだったが)は、
皆石畳の上に倒れ伏し、その場に立っていたのは、
マジェスティックゴートを被ったクリエイター1人と、フィーリルが1匹だった。
アルケミストリートはプロンテラの中でも、人通りの少ない所でもある。
まだ通報がプロンテラ騎士団へ為されていないのだろう。
そこに私達が通りかかったというわけだ。
フィーリルを深淵の騎士に張り付かせ…
「ぇい!」
曲刀を振るって躍り掛かる。
高い回避力を誇るフィーリルが相手を攪乱し、
「てぁっ!」
ガチャン!ボォォォッ
ヒヒヒーン!
隙を狙って足下へ火炎瓶投げるのも忘れない。
立ち上る火柱に巻かれると、黒馬が苦悶の嘶きを上げた。
「なかなかやるな…あのクリエイター」
「でも、そろそろ支援してあげないと危ないと思…」
ミュナがそう呟いた次の瞬間、振り回されるランス…
深淵の騎士のブランディッシュスピアに、クリエイターが捕らえられた!
「ふぎゃっ!」
少々情けない声をあげつつ吹き飛ばされてきた小柄なクリエイターに、私は見覚えがあった。
「…あれは…鈴屋さんじゃないか!
ミュナさん手当を頼む!シルヴィートさん、いくぞ!」
「任せて!」
「……」
無言で頷き、弾けるように駆け出すシルヴィートと共に、
私達は槍を構える深淵の騎士の前に立ち塞がった。
鈴屋を守ろうと必死なフィーリルではあったが、
主が倒れると戦意を喪失し、深淵の騎士の注意を惹くのを止めてしまった。
深淵の騎士は駆け寄ってきた私達の方へ向き直ると、再び槍を振り上げた!
「今!」
シルヴィートが小さく叫ぶ。
今度は私が頷き、槍が最大の力で振り回せない位置へと踏み込む。
そして、ほぼゼロ距離から…二人でソウルブレイカーを放つ!
『どどぅぅぅぅぅぅぅぅん!』』
一撃が非常に重くとも、動きが緩慢な深淵の騎士だからこそ、隙がある。
懐から放たれたソウルブレイカーは、深淵の騎士を一撃…いや、二撃で消滅させた。
デモンストレーションや、フィーリルの攻撃でそこそこに消耗していたらしい。
追撃がもう1,2回ほど必要かと思っていたが、そこまで至らず幸いだった。
* * *
「どうだい?様子は…」
よもや死んでしまったのでは?と思えるぐらいに、見事な吹き飛び方だったので、
心配をしつつミュナに訊ねる。
「怪我はとりあえず癒したけどね?気を失ってるだけだと思う」
「そうか…よかった」
「フェン?さっき覚えのあるような言い方をしていたが、彼女とはどんな?」
シルヴィートが聴いてきた。
まぁ、無理もない。彼女たちはこの女性のことは知らないのだから。
「彼女は…鈴屋さん、といっても私も屋号で呼んでるだけで、本名は知らないんだが、
まぁ…店の人と、その客って言う程度…勿論色々談笑も交わしてはいるが…。
目の前であんな事になってたら、手を貸さないわけにはいかないだろう?
知らぬ仲ではないから…ああ、勿論二人にはあまり関係のない事だが。
成り行きとはいえ、巻き込んで済まなかった」
「ふーん…まぁ、私もそう思ったから、別に気にしてないよ?
ところで、此処に倒れてた人達は、とりあえず還ってしまったっぽい。
リザレクション間に合わなかったよ」
還って…というのは、魂が還り、別の場所で再生をしているだろう…ということだ。
冒険者は冒険の中で、傷つき倒れ伏したときにのみ、
オーディン神の加護によるものか、あらかじめ決めておいた場所で再生することが出来る。
体験した記憶、経験の喪失と、死の恐怖、激しい痛みを体験することになるわけだが。
このような町中においては、経験などの喪失はなく、ただ再生だけが行われる。
多分、気を取り戻せば、じきに消えた連中もまた戻ってくるだろう。
しかしこの場においてのみ考えるとするならば、
鈴屋とフィーリルだけが、今の騒動について知りうる、
この場に存在する唯一の証人というわけだ。
* * *
5分ほど経って、ようやく鈴屋は目を覚ました。
「あれ?私ってば…??」
どうやら事態が飲み込めていないらしい。
まぁ、起きたら見知らぬ連中に取り囲まれているのだから、無理もない。
しかし、辺りを見回して私の存在に気づくと、
「あぁ、フェンさんじゃないのよ。お久しぶり。
もしかして助けられたっぽい?」
あっけらかんとして、話しかけてくる。
「たまたま通りかかってねぇ…なんでまた深淵の騎士なんかに襲われてたのさ?」
「ええっとね…普通にお店開いてたのよ。
そしたら、近くの店の人がお客に難癖付けられて、その仲裁に入ったら…」
「枝折られたの?酷いなーそれ」
「まあ…最近そんな短絡的な奴が増えてるとも聞く。
出来るならば召喚された深淵の騎士なんかでなく、直接その本人を…」
「確かに酷いなーうん」
慌てて私はシルヴィートの言葉を遮る。
多分続く言葉は、直接本人をどうにかしてややれば、とか言う内容だろう。
正義感…というわけでもないのだろうけれど、
どちらかといえば私よりよっぽど暗殺者らしい存在の彼女だ。
暗殺を表向きよしとしていない王国の首都で、不穏当な言動は秘する方が良い。
シルヴィートもそれを察したのか、口をつぐみ頷いた。
「それで、あなたたちも命の恩人ですよね?
助かりました。ありがとうございます」
屈託もない笑顔で、鈴屋はミュナとシルヴィートに礼を言う。
「いえいえ。困ってる人を助けるのは聖職者としての務めです。
気にしないで…もし、気にしてくれるのだったら…」
「だったら??」
「そろそろ、クレープ買いに行って良いかなぁー?」
ミュナの発した言葉に、皆一瞬目が点になる。
そして、辺りに笑い声がこだました。
「ぶっ!」
「…ふふっ」
「あははははは!
私は大丈夫。行ってらっしゃい~」
「じゃお言葉に甘えて♪
西門前だったよね!シルヴィは?」
「いや、私はいい」
「じゃ、行ってくるっ!」
言うや否や、ミュナは速度上昇の奇跡を我が身に願うと、
一目散に駆け出していったのだった。
* * *
「だけど、珍しいよね。フェンさんが人連れているなんて。
確か連れだってたのって…奥さんっぽい人と一緒だったの見たっきり…」
「それは、違う人だと思うよ?多分臨時で会った人だと思う」
と、言葉をまた遮ってみる。
実際違わないのだけれど、あまり結婚してるとか言うのは大っぴらに言いたくないのだ。
気恥ずかしいから。
「そうだっけ?まぁいいや。
珍しいから何かあるのかなって、思って…ピピーンと来たんだ、何となく」
いつも思う事だが、女の勘というのは恐ろしい。
根拠もなく言い当てたりするものだから。
「いや、特に何もないよ?
ただのゲフェンタワー繋がりの同行者。
以前言わなかったけかな?ゲフェンにも私が寄るたまり場が有るって」
「ふーん…そうかぁ。
まぁ、私の気のせいかもだし。
そうそう、今ねちょっと研究というか、調べたいモノがあるんだ。
ユミルの心臓っていうの?よくわからないんだけど…」
「っ!」
「…?」
まさか、ここでその話題がでてくるとは思わなかった。
鈴屋は何処までユミルの心臓のことについて知っているのか。
シルヴィートも私の表情が変わった事に気付いたようだ。
シルヴィートはまぁ…同行するからおいおい話すから良いとしても、
鈴屋は…関係しないのだから、ここで旅の経緯を話す必要性は無い。
しかし既に何か調べで気付いてしまわれると…やっぱり具合はよろしくない。
調べる課程で、変な場面で出会ったりするぐらいなら…
「…何処で知ったんだい?」
「本で読んだんだ。でも何か凄いモノだって事ぐらいしか書いてなくて、
色んな所あるってるフェンさんなら、聴いたことあるかなぁって。
やっぱり知ってるの?」
「多分…」
「フェン。私達が同行している事にも関係が…?」
「ああ。少なからずある事だ。
もうこうなったら巻き込むしか、ないか」
私は一息ついて、言った。
「鈴屋さん?」
「は、はいっ!?」
突然名前を呼ばれて、鈴屋の声がうわずる。
「本気でこのこと知りたい気、あるなら…来るかい?
多分危険な旅になると思うんだが…
私が知ってる範囲で有れば教えるし、
旅の課程でまず間違いなく関連するモノに出くわすはずだよ」
変な場面で私達と出くわすなら、まだ良い。
好奇心旺盛な彼女のことだ。
突っ走って変な相手と鈴屋が出くわして、酷い目に遭わないとも限らない。
とりあえず、調べる気があるならば、
その意欲が萎えるまで目の届くところに居て貰った方が、
押しつけがましいとは思いつつも、寝覚めの悪い事にならないのでは、と思ったのだ。
「危険かぁ…まぁ、とりあえず先に話し聴かせてもらってからかな?
どんな事か判らないのに、投資は出来ないから。
あ、でも…ユミルの心臓については教えて貰いたいけどね」
まぁ、当然の答えだ。
冒険だからといって、危険に自ら飛び込んでいくという人の方が、
私はあまり信用ならないと感じる。
一歩引いて状況を見定めるぐらいでないと。
「わかった。
じゃあミュナさんが戻ってきてから、とりあえずの状況を話そう。
出来れば手伝って貰いたいんだけれども、ね?」
多分、直ぐにでもミュナは戻ってくるだろう。
今思い出したが、確か今日は…件の店は定休日だったはずだから。
(私だけ)悪い事をしたなぁ…と思いつつ、私達はミュナの帰りを待つのだった。
この記事へのコメント
ROWS Zwie 第3話です。ぐだぐだですがorz
2008/02/08 23:44:00
というわけで、何とか…無理矢理3話目を書いてます。
どんどん仕事が忙しくなってきて、頭はわやくちゃですorz
もっとゆっくり、何かをする時間が欲しいところです。
とりあえず、同行しない人も含めて、今回4人+私が出ているので、
やっぱりわやくちゃです。
今の私を象徴しているが如く(汗
判りづらいでしょうが、見てやって下さい。
ちなみに、作中のデザートは私も大好物なのです(笑
あと、出ている面々の元キャラ持ってる方々…
貰った資料やら、勝手に想像している部分などばかりなので…
イメージと違かったりしたら…ごめんなさいorz
私の中でイメージを消化しきれてないんだな、きっと…(>、<;)
▼続きを読む▼
どんどん仕事が忙しくなってきて、頭はわやくちゃですorz
もっとゆっくり、何かをする時間が欲しいところです。
とりあえず、同行しない人も含めて、今回4人+私が出ているので、
やっぱりわやくちゃです。
今の私を象徴しているが如く(汗
判りづらいでしょうが、見てやって下さい。
ちなみに、作中のデザートは私も大好物なのです(笑
あと、出ている面々の元キャラ持ってる方々…
貰った資料やら、勝手に想像している部分などばかりなので…
イメージと違かったりしたら…ごめんなさいorz
私の中でイメージを消化しきれてないんだな、きっと…(>、<;)
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失われし者の幻影 ~RO World Seeker Zwei~
第3話 名乗り、選ばれし者
蝶の羽の魔力は、私を危なげな橋の上から、
しっかりとした石畳のゲフェンへと瞬時に移動させてくれた。
毎度の事ながら、この感覚は気持ちの良いものではないが、
急ぎ旅をする者にとっては重宝する。
これを創り出した錬金術師に、感謝してみたいところだ。
頭の中の、ぐらぐらと揺らいだ感覚を取り戻すと、
私はゲフェンタワーへと足を向けた。
タワー横には、なじみの面々が居るからだ。
かつて居た面々は既に居らず、滞在者の代替わりが何度か繰り返されている。
私は気まぐれに何度か立ち寄り、その度にその面々に世話になった。
不思議なこの場所には、困った時、暇な時、等、
何か事があれば、大抵一度は顔を出すことにしているのだ。
* * *
私はタワーのある中央広場へ続く階段で、クローキングを使いその身を隠すことにした。
これは、私の癖だったりする。
交渉事や、恫喝なら…まぁ出来なくもないが、
他愛もない話題というのは、私的に話題が乏しく結構苦手なので、
隠れて様子を見聞きし、入れるようなら姿を現し、会話に混ざるのだ。
毎度毎度それをやっているので、慣れた人は普通に挨拶を返してもくれるが、
慣れない人は驚いたりすることもしばしば。
もっと慣れた人は、おもむろにルアフを焚いて私を炙り出そうとする。
アレはちょっとばかり勘弁して欲しい。熱いから。
ともあれ、隠れながら様子を見に行ってみると、その場には4人の女性が居た。
アーチャーのシュリーレン、
アサシンクロスのシルヴィート、
ハイプリーストのシルフィ=ホーンとミュナだ。
男が一人も居やしない、男としては非常に混ざりにくい状況だ。
とりあえず、こっそりと会話に耳を欹ててみる。
とは言っても喋っているのはシュリーレンとミュナだけ。
プロンテラに出来た美味しいスィーツ店の話題を話しているらしい。
ミュナの頭の上に乗っている茶色の猫が、退屈そうに欠伸をしている。
シルヴィートは無言で短剣の手入れを、
シルフィは眠っているのだろうか?
ゲフェンタワーの壁を背もたれにして、目を瞑っている。
食べ物の話題なら、私も混ざれるかもしれない。
そう思って私は傍らに姿を現した。
「やぁ、こんにちは。食べ物の話でもしているのかな?
私もこの間プロンテラで、美味しいクレープ屋を見つけたんだ。
たたむんじゃなくて、巻いてある、変わったクレープなんだが」
「あ、フェンさんいらっしゃい」
「いつから聴いていたのさ?」
「やぁ、フェン」
「Zzzzz…」
突然姿を現した私に驚くことなく、1名を除き皆こちらを見る。
何度もやっているから、皆の対応も慣れたもんだ。
「食べ物の話を始めた所からだよ。
盗み聞きをするつもりはなかったんだが…
まぁ、いつものどおり結果的にしてしまってるな」
「ボクは別に気にしないけどねーいつものことだし…ンッ」
シュリーレンがポケットからキャンディを取り出し、ほおばる。
「あたしも気にしない…むしろ、そのお店のことが気になるっ!
プロンテラのどの辺にあるの?」
美味しいモノが大好きなミュナは、目を光らせて私を見やる。
「移動販売のお店でさ、今日居るかどうか判らないけど…
プロンテラの西門周辺で私は見かけたなぁ」
「そう?じゃあ後でいってみようかな」
心底嬉しそうなミュナ。
しかし、私が此処で出したい話題はこれではない。
話題を振るのにちょっと困って…実際困った顔をしていたのだろう、
シルヴィートがそれを見かねたのか、声をかけてきた。
「フェンは、何か用事があったんじゃないの?
なにか、困った様子がするんだけれども」
「またゲフェニア遺跡でも行って痛い目見てきたのー?」
確かに欲しい魔力のカードがあるから、良く立ち入って返り討ちに遭ってはいるが…
「そうじゃない。ちょっとね、一人じゃ対処が難しそうなヤマに当たってね。
それなりに経験を積んでいる人を捜そうかと思って、来てみたんだ。
霧矢さんとか、居ると助かるかもとか思ったんだが…」
「彼なら行き先もいわずに、何処かに行ってしまったわね。
既に1ヶ月、音沙汰無しよ?挨拶が遅れたわね…こんにちわ、フェン。
それで、何があったのかしら?」
いつの間にか目を覚ましていたのだろうか、
静かな物言いで、しかしどこか棘のある口調でシルフィが声をかけてきた。
「…あまり大きな声では言えないんだけれども、
最近行けるようになったアルナベルツ教国。
そこの裏を探るヤマなんだ。
一人で何とかしようとも思ったが…流石にはじめての国だからなぁ…
慣れないところで失敗するのもアレだと思ってね。
詳しい話は…まだちょっと言えないけれども…」
「ボクはまだ行ったこと無いな~。興味あるから着いて行っちゃダメ?」
シュリーレンが弓を担いで、直ぐにでも行こうという意志を見せる。
しかし、多分隠密行動が多くなると思える状況下で、
遊びがてら行ってみようという雰囲気の彼女では、
廻りを巻き込む事態にならないとも限らない。
なにより、実力的に危険であると想像できるところに、安易に連れて行くわけにも行かない。
「悪いけれど、観光に行くような話しでもないんだな、これが。
少なからず命の危険を伴う仕事だから…それなりに腕利きであって欲しいんだ。
申し訳ないけどね」
「えぇ~?ボクだって強いんだからね?」
と、文句たらたらなシュリーレンを遮り、シルヴィートが立ち上がった。
「貴方に力及ばずとも、同じ技能を持つ者同士…連携もとりやすいはず…。
もしものことがあれば…シルフィ」
「判ったわ。
目的地がアルナベルツと聞こえたから、本当は…正直私がと思ったのだけれど…
任せるわ、シルヴィ?ギルドの方は私が見ておくわ」
妙なシルヴィートとシルフィとのやり取り、
そしてシルフィに向けてシルヴィートは頷くと、
「フェン、私も行くわ…」
シルヴィートは快く同行を申し出てくれた。
「詳しい話を言わなくても、来てくれるのかい?」
「私も思うところというか…虫の知らせというか、何かを感じた。
だから同行するのよ」
女の勘か何かなのだろうか?
それだけで同行してくれる。此処は素直にありがたいと思おう。
「シルフィは行かないのね?
だったら、あたしがいこうかな…あまり支援が得意では無いけれども。
あと、痛いのもあんまり好きじゃないけれども。支援役は必要でしょ?
その代わり、その仕事が終わったら、さっきの話のクレープ屋さんで奢ってね?」
「痛いの嫌いって言う割にミュナは、結構モンハウあると駆け込むんだよね~?」
「だって!モンハウあったら、突っ込んで潰しちゃうもんでしょー?」
「それはミュナが相当防御が固いからでしょうね?
私も痛みには結構耐えられるつもりではあるけれど…
ミュナは私より、ある意味神に愛されているのかしらね…」
「私や、多分フェンでも、
一人で敵の群れを排除するには、相当の犠牲を払わねばならないからな…」
ミュナのモンハウ潰す宣言を聞いて、茶化したり真面目に対応したりする面々。
それぞれの反応が種々様々で、何となく面白い。
何となく自嘲気味に笑みを浮かべる、シルフィの表情が印象深かった。
折角なのでシルヴィートの台詞に、私の意見も付け加えてみることにする。
「私だったら、勿論一人の時だが即逃げだな。
勝てない勝負はしない主義だから…
逆に同行者が居れば…ケースバイケースかな?」
「というと?」
「例えば、同行者を守らなければいけないならば…即座に逃げるか、
でなければ私が囮になって逃げて貰うか。
同行者が旅の仲間で、勝算があるなら…
背後は守って貰うことを想定して、戦うかな。
勝算が無ければやっぱり即逃げだけど…
皆逃げてくれなかったら、やっぱり戦うかも?」
これが基本的であり、絶対の私のスタイルだ。
勝てる見込がなければ勝負しない。それが今まで私の命を繋いできた。
もっとも、見込み違いというのもよくあって、倒れることもままあったわけだが。
「非常になりきれないのね、フェンさんって。
まぁフェンさんらしいけどね?」
「な゛~」
ミュナの頭上の茶猫が、何とも言えないタイミングで鳴いた。
とりあえず、そう言うミュナに向き直り、一息ついて言った。
「まぁね。
さっきも言ったけど、危険が伴う事だから…出来ればトラブルは避けたい。
私が見捨てるとかいう選択肢を中々下せない主義なものだから。
みんなが酷い目に遭うことだって想像できてしまう。
出来れば何も無く平穏無事に終えたいところだから…
その辺気をつけてもらえるなら、来て貰えると、助かるけれど?どう?」
ミュナは考えることなく、即座に
「うん、判った。気をつけるから同行させて?
正直いって、あたしなにか変わったことないかなぁって、思ってた所だったし」
と、返答した。
「ありがとう。これで2人…もう1人ぐらい面子が居ると良いんだが、
シルフィさんは、ギルドの用事があって動けないようだし…
ここではこれ以上は無理かな?」
「だったら、フェンさん?一回プロンテラ行ってみない?
飛行船のあるイズルードへの通り道だし」
「なんとなく、ミュナの行きたい先が判った気がするな…」
「あー!?クレープ??ボクも食べたい!」
「正解♪奢りは先払いでもOKよ~♪」
「シュリ?あまりフェンを困らせない方が良いと思う」
「そうね。貴女には別な事をお願いしようかしら…?」
「えー!?」
シルフィが、シュリーレンの同行を制止する。そして、
「さっきも言ったとおり、私もアルナベルツ教国については気になる点があるの。
もしも、何か変わったことがわかったら教えてくれると助かるわ」
私に情勢を教えて欲しいと、頼んできた。
この国ではオーディンを信仰しているから、確かに相手は異教徒だが…
「まさに、その変わったことを調べにいくんだけれどね」
「でしたら、その変わったことで、気付いたことをあとで教えて貰えれば…」
「何処まで話せるかは、判らないよ?」
「それでもいいです。何か私が気付くこともあるかもしれませんし…ね?」
…シルフィは、アルナベルツ教国について、何か知っているのだろうか?
しかし、今問いただしても教えて貰える雰囲気ではない。仕方ない…
「わかった。あとで判る範囲で教えるよ」
「ありがとうございます。では、せめてプロンテラまで送りましょう」
シルフィは触媒となるブルージェムストーンを取り出すと、両手で包むように捧げ持ち、
祈りの句を紡ぎはじめた。
『Μεγάλος όλος-πατέρας Odin.
Το παιδί των οργανισμών μας,
φέρεται στη δρύινη ερχόμενη περιοχή στήθων,
η λήψη κασετών.』
シルフィの掌の中で、魔力を受け砕けたブルージェムストーンの欠片の煌めきを、
石畳の上に振りまくと、その眼前に光の柱が立ち上った。
ワープポータル。術者が基点として記憶している地へ、人や物を移動させる神の奇跡だ。
「頑張って、それでも気を付けてくださいね…?」
「うん、行ってくるよ♪」
「あとは、よろしく頼む…」
ミュナとシルヴィートが、自ら進んで光の柱の中に入り、その姿を消す。
私も手を振り、
「土産話、楽しみにしていてくれよ」
残った二人にそう言うと、私も立ち上る光の柱に身を沈めた……
* * *
「そういえばシルフィは、なんでアルナベルツに行きたかったの?」
「アルナベルツ教国は…この国からすれば異教徒の国。
オーディンが完全なる唯一神とは限らないし、
アルナベルツで信仰されている宗教が、邪教とも限らない。
ただ、その在りようを私は知りたいのよ」
「じゃ、邪教だったら、どうするの?」
「うふふ、内緒よ。今はね?
きっと、人の心が拠り所とするモノによって、
神の側面は如何様にも変わるのでしょうね…」
「何も悪いこととか、無いと良いのにねぇ」
「そうね。
何となくだけど、フェンはそう言うのに染まらない感じがするから、
さっきのお願いには、うってつけだと思うわ」
私は、神を信じていない、ハイプリースト。
過去の忌まわしき出来事によって、宗教自体を既に信じることができずに、
その奇跡だけを求めた存在。
今在るオーディン神を信じていないにもかかわらず、私は高位の奇跡を行使できる。
ならば、この力の根源は何なのか…
私が信じられなくなった神の中でも、特に嫌悪するべき邪教と呼ばれる存在。
終末を信じ、異端を由とする、者達。
目につかなくなったとされる今でも、私は彼らを一度たりとて赦したことはない。
私は彼らを殲滅するために、この力を与えられている…気がする。
だから、かけがえのない友人である、フェンやシルヴィ、ミュナの無事を願いつつも、
フェン達がアルナベルツ教国の裏を曝いてくれる事を、何処かで期待している。
どう事が進むか判らないけれど、私はその後の為の準備をしておきましょう…
「とりあえず、みんなの無事を祈っておきましょう」
「そうだね~」
そう呟いて、私は空を見上げた。
第3話 名乗り、選ばれし者
蝶の羽の魔力は、私を危なげな橋の上から、
しっかりとした石畳のゲフェンへと瞬時に移動させてくれた。
毎度の事ながら、この感覚は気持ちの良いものではないが、
急ぎ旅をする者にとっては重宝する。
これを創り出した錬金術師に、感謝してみたいところだ。
頭の中の、ぐらぐらと揺らいだ感覚を取り戻すと、
私はゲフェンタワーへと足を向けた。
タワー横には、なじみの面々が居るからだ。
かつて居た面々は既に居らず、滞在者の代替わりが何度か繰り返されている。
私は気まぐれに何度か立ち寄り、その度にその面々に世話になった。
不思議なこの場所には、困った時、暇な時、等、
何か事があれば、大抵一度は顔を出すことにしているのだ。
* * *
私はタワーのある中央広場へ続く階段で、クローキングを使いその身を隠すことにした。
これは、私の癖だったりする。
交渉事や、恫喝なら…まぁ出来なくもないが、
他愛もない話題というのは、私的に話題が乏しく結構苦手なので、
隠れて様子を見聞きし、入れるようなら姿を現し、会話に混ざるのだ。
毎度毎度それをやっているので、慣れた人は普通に挨拶を返してもくれるが、
慣れない人は驚いたりすることもしばしば。
もっと慣れた人は、おもむろにルアフを焚いて私を炙り出そうとする。
アレはちょっとばかり勘弁して欲しい。熱いから。
ともあれ、隠れながら様子を見に行ってみると、その場には4人の女性が居た。
アーチャーのシュリーレン、
アサシンクロスのシルヴィート、
ハイプリーストのシルフィ=ホーンとミュナだ。
男が一人も居やしない、男としては非常に混ざりにくい状況だ。
とりあえず、こっそりと会話に耳を欹ててみる。
とは言っても喋っているのはシュリーレンとミュナだけ。
プロンテラに出来た美味しいスィーツ店の話題を話しているらしい。
ミュナの頭の上に乗っている茶色の猫が、退屈そうに欠伸をしている。
シルヴィートは無言で短剣の手入れを、
シルフィは眠っているのだろうか?
ゲフェンタワーの壁を背もたれにして、目を瞑っている。
食べ物の話題なら、私も混ざれるかもしれない。
そう思って私は傍らに姿を現した。
「やぁ、こんにちは。食べ物の話でもしているのかな?
私もこの間プロンテラで、美味しいクレープ屋を見つけたんだ。
たたむんじゃなくて、巻いてある、変わったクレープなんだが」
「あ、フェンさんいらっしゃい」
「いつから聴いていたのさ?」
「やぁ、フェン」
「Zzzzz…」
突然姿を現した私に驚くことなく、1名を除き皆こちらを見る。
何度もやっているから、皆の対応も慣れたもんだ。
「食べ物の話を始めた所からだよ。
盗み聞きをするつもりはなかったんだが…
まぁ、いつものどおり結果的にしてしまってるな」
「ボクは別に気にしないけどねーいつものことだし…ンッ」
シュリーレンがポケットからキャンディを取り出し、ほおばる。
「あたしも気にしない…むしろ、そのお店のことが気になるっ!
プロンテラのどの辺にあるの?」
美味しいモノが大好きなミュナは、目を光らせて私を見やる。
「移動販売のお店でさ、今日居るかどうか判らないけど…
プロンテラの西門周辺で私は見かけたなぁ」
「そう?じゃあ後でいってみようかな」
心底嬉しそうなミュナ。
しかし、私が此処で出したい話題はこれではない。
話題を振るのにちょっと困って…実際困った顔をしていたのだろう、
シルヴィートがそれを見かねたのか、声をかけてきた。
「フェンは、何か用事があったんじゃないの?
なにか、困った様子がするんだけれども」
「またゲフェニア遺跡でも行って痛い目見てきたのー?」
確かに欲しい魔力のカードがあるから、良く立ち入って返り討ちに遭ってはいるが…
「そうじゃない。ちょっとね、一人じゃ対処が難しそうなヤマに当たってね。
それなりに経験を積んでいる人を捜そうかと思って、来てみたんだ。
霧矢さんとか、居ると助かるかもとか思ったんだが…」
「彼なら行き先もいわずに、何処かに行ってしまったわね。
既に1ヶ月、音沙汰無しよ?挨拶が遅れたわね…こんにちわ、フェン。
それで、何があったのかしら?」
いつの間にか目を覚ましていたのだろうか、
静かな物言いで、しかしどこか棘のある口調でシルフィが声をかけてきた。
「…あまり大きな声では言えないんだけれども、
最近行けるようになったアルナベルツ教国。
そこの裏を探るヤマなんだ。
一人で何とかしようとも思ったが…流石にはじめての国だからなぁ…
慣れないところで失敗するのもアレだと思ってね。
詳しい話は…まだちょっと言えないけれども…」
「ボクはまだ行ったこと無いな~。興味あるから着いて行っちゃダメ?」
シュリーレンが弓を担いで、直ぐにでも行こうという意志を見せる。
しかし、多分隠密行動が多くなると思える状況下で、
遊びがてら行ってみようという雰囲気の彼女では、
廻りを巻き込む事態にならないとも限らない。
なにより、実力的に危険であると想像できるところに、安易に連れて行くわけにも行かない。
「悪いけれど、観光に行くような話しでもないんだな、これが。
少なからず命の危険を伴う仕事だから…それなりに腕利きであって欲しいんだ。
申し訳ないけどね」
「えぇ~?ボクだって強いんだからね?」
と、文句たらたらなシュリーレンを遮り、シルヴィートが立ち上がった。
「貴方に力及ばずとも、同じ技能を持つ者同士…連携もとりやすいはず…。
もしものことがあれば…シルフィ」
「判ったわ。
目的地がアルナベルツと聞こえたから、本当は…正直私がと思ったのだけれど…
任せるわ、シルヴィ?ギルドの方は私が見ておくわ」
妙なシルヴィートとシルフィとのやり取り、
そしてシルフィに向けてシルヴィートは頷くと、
「フェン、私も行くわ…」
シルヴィートは快く同行を申し出てくれた。
「詳しい話を言わなくても、来てくれるのかい?」
「私も思うところというか…虫の知らせというか、何かを感じた。
だから同行するのよ」
女の勘か何かなのだろうか?
それだけで同行してくれる。此処は素直にありがたいと思おう。
「シルフィは行かないのね?
だったら、あたしがいこうかな…あまり支援が得意では無いけれども。
あと、痛いのもあんまり好きじゃないけれども。支援役は必要でしょ?
その代わり、その仕事が終わったら、さっきの話のクレープ屋さんで奢ってね?」
「痛いの嫌いって言う割にミュナは、結構モンハウあると駆け込むんだよね~?」
「だって!モンハウあったら、突っ込んで潰しちゃうもんでしょー?」
「それはミュナが相当防御が固いからでしょうね?
私も痛みには結構耐えられるつもりではあるけれど…
ミュナは私より、ある意味神に愛されているのかしらね…」
「私や、多分フェンでも、
一人で敵の群れを排除するには、相当の犠牲を払わねばならないからな…」
ミュナのモンハウ潰す宣言を聞いて、茶化したり真面目に対応したりする面々。
それぞれの反応が種々様々で、何となく面白い。
何となく自嘲気味に笑みを浮かべる、シルフィの表情が印象深かった。
折角なのでシルヴィートの台詞に、私の意見も付け加えてみることにする。
「私だったら、勿論一人の時だが即逃げだな。
勝てない勝負はしない主義だから…
逆に同行者が居れば…ケースバイケースかな?」
「というと?」
「例えば、同行者を守らなければいけないならば…即座に逃げるか、
でなければ私が囮になって逃げて貰うか。
同行者が旅の仲間で、勝算があるなら…
背後は守って貰うことを想定して、戦うかな。
勝算が無ければやっぱり即逃げだけど…
皆逃げてくれなかったら、やっぱり戦うかも?」
これが基本的であり、絶対の私のスタイルだ。
勝てる見込がなければ勝負しない。それが今まで私の命を繋いできた。
もっとも、見込み違いというのもよくあって、倒れることもままあったわけだが。
「非常になりきれないのね、フェンさんって。
まぁフェンさんらしいけどね?」
「な゛~」
ミュナの頭上の茶猫が、何とも言えないタイミングで鳴いた。
とりあえず、そう言うミュナに向き直り、一息ついて言った。
「まぁね。
さっきも言ったけど、危険が伴う事だから…出来ればトラブルは避けたい。
私が見捨てるとかいう選択肢を中々下せない主義なものだから。
みんなが酷い目に遭うことだって想像できてしまう。
出来れば何も無く平穏無事に終えたいところだから…
その辺気をつけてもらえるなら、来て貰えると、助かるけれど?どう?」
ミュナは考えることなく、即座に
「うん、判った。気をつけるから同行させて?
正直いって、あたしなにか変わったことないかなぁって、思ってた所だったし」
と、返答した。
「ありがとう。これで2人…もう1人ぐらい面子が居ると良いんだが、
シルフィさんは、ギルドの用事があって動けないようだし…
ここではこれ以上は無理かな?」
「だったら、フェンさん?一回プロンテラ行ってみない?
飛行船のあるイズルードへの通り道だし」
「なんとなく、ミュナの行きたい先が判った気がするな…」
「あー!?クレープ??ボクも食べたい!」
「正解♪奢りは先払いでもOKよ~♪」
「シュリ?あまりフェンを困らせない方が良いと思う」
「そうね。貴女には別な事をお願いしようかしら…?」
「えー!?」
シルフィが、シュリーレンの同行を制止する。そして、
「さっきも言ったとおり、私もアルナベルツ教国については気になる点があるの。
もしも、何か変わったことがわかったら教えてくれると助かるわ」
私に情勢を教えて欲しいと、頼んできた。
この国ではオーディンを信仰しているから、確かに相手は異教徒だが…
「まさに、その変わったことを調べにいくんだけれどね」
「でしたら、その変わったことで、気付いたことをあとで教えて貰えれば…」
「何処まで話せるかは、判らないよ?」
「それでもいいです。何か私が気付くこともあるかもしれませんし…ね?」
…シルフィは、アルナベルツ教国について、何か知っているのだろうか?
しかし、今問いただしても教えて貰える雰囲気ではない。仕方ない…
「わかった。あとで判る範囲で教えるよ」
「ありがとうございます。では、せめてプロンテラまで送りましょう」
シルフィは触媒となるブルージェムストーンを取り出すと、両手で包むように捧げ持ち、
祈りの句を紡ぎはじめた。
『Μεγάλος όλος-πατέρας Odin.
Το παιδί των οργανισμών μας,
φέρεται στη δρύινη ερχόμενη περιοχή στήθων,
η λήψη κασετών.』
シルフィの掌の中で、魔力を受け砕けたブルージェムストーンの欠片の煌めきを、
石畳の上に振りまくと、その眼前に光の柱が立ち上った。
ワープポータル。術者が基点として記憶している地へ、人や物を移動させる神の奇跡だ。
「頑張って、それでも気を付けてくださいね…?」
「うん、行ってくるよ♪」
「あとは、よろしく頼む…」
ミュナとシルヴィートが、自ら進んで光の柱の中に入り、その姿を消す。
私も手を振り、
「土産話、楽しみにしていてくれよ」
残った二人にそう言うと、私も立ち上る光の柱に身を沈めた……
* * *
「そういえばシルフィは、なんでアルナベルツに行きたかったの?」
「アルナベルツ教国は…この国からすれば異教徒の国。
オーディンが完全なる唯一神とは限らないし、
アルナベルツで信仰されている宗教が、邪教とも限らない。
ただ、その在りようを私は知りたいのよ」
「じゃ、邪教だったら、どうするの?」
「うふふ、内緒よ。今はね?
きっと、人の心が拠り所とするモノによって、
神の側面は如何様にも変わるのでしょうね…」
「何も悪いこととか、無いと良いのにねぇ」
「そうね。
何となくだけど、フェンはそう言うのに染まらない感じがするから、
さっきのお願いには、うってつけだと思うわ」
私は、神を信じていない、ハイプリースト。
過去の忌まわしき出来事によって、宗教自体を既に信じることができずに、
その奇跡だけを求めた存在。
今在るオーディン神を信じていないにもかかわらず、私は高位の奇跡を行使できる。
ならば、この力の根源は何なのか…
私が信じられなくなった神の中でも、特に嫌悪するべき邪教と呼ばれる存在。
終末を信じ、異端を由とする、者達。
目につかなくなったとされる今でも、私は彼らを一度たりとて赦したことはない。
私は彼らを殲滅するために、この力を与えられている…気がする。
だから、かけがえのない友人である、フェンやシルヴィ、ミュナの無事を願いつつも、
フェン達がアルナベルツ教国の裏を曝いてくれる事を、何処かで期待している。
どう事が進むか判らないけれど、私はその後の為の準備をしておきましょう…
「とりあえず、みんなの無事を祈っておきましょう」
「そうだね~」
そう呟いて、私は空を見上げた。
この記事へのコメント
ROWS Zwie 第2話 とりあえず、何とかやっつけ仕事でアップしてみる
2008/01/29 22:14:02
うあーーやっとこさ。
2話目、無駄に長いですが、書き終わりました。
(終わっただけで推敲やってないから、内容もヤバヤバ)
仕事忙しすぎて、設定思い出しつつちまちまちまちま、やってるから、
遅くなって申し訳ない(誰も待ってないかw
とりあえず、この後から今回同伴する面子が現れます。
全然期待しないでお待ち下さいませorz
次回ゲフェンタワー横の面々を出すかもしれないので、
その場のキャラの取材をするかもしれません(激マテ
というわけで、まったり進行ですが、書いてみましたので、見てやってください。
あと現在旅行に行ってるであろう某お方ー!キャラ設定おくれ~orz
早くて次回、遅くとも次々回にはキャラ出したいぞ~(>。<);
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2話目、無駄に長いですが、書き終わりました。
(終わっただけで推敲やってないから、内容もヤバヤバ)
仕事忙しすぎて、設定思い出しつつちまちまちまちま、やってるから、
遅くなって申し訳ない(誰も待ってないかw
とりあえず、この後から今回同伴する面子が現れます。
全然期待しないでお待ち下さいませorz
次回ゲフェンタワー横の面々を出すかもしれないので、
その場のキャラの取材をするかもしれません(激マテ
というわけで、まったり進行ですが、書いてみましたので、見てやってください。
あと現在旅行に行ってるであろう某お方ー!キャラ設定おくれ~orz
早くて次回、遅くとも次々回にはキャラ出したいぞ~(>。<);
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失われし者の幻影 ~RO World Seeker Zwei~
第2話 偽りの安寧、偽りの存在
私はミールガルの願いを聞き入れ、彼を背負いながら坂道を登っていった。
「ところで、貴方はあちらの神官かなにかでは無いのか?
先ほどオーディンを信仰しても居ないと言っていたが…」
耳元でミールガルが囁く。
外国の者が入り込んでいる事を知らない以上、外国の情報は皆無なのだろう。
「いえ。私は…珍しいモノを探すことを至上命題として生きている、
ただの探索者ですよ。この国にもそう言った類のモノを探しに来ただけです。
だから、神には仕えていません」
「ふむ…ならば、何故神の奇跡を行使できる?
少なくとも、今私は打撲や骨折の痛みを感じていないのだが」
どうやら魔力のあるカードについても良くわからないらしい。
私はクリップを見せこう言った。
「これです。このクリップに着いているカード…
モンスター達の力を封じたものだそうですが、
この力を行使することで、神の奇跡にも似た力を使うことが出来るのですよ」
しげしげと見つめるミールガル。
「こんなもので…信仰心が無くとも使えるというのか。
…奇跡の代用品は、こんな所にも広がっているのだな…」
「代用?」
「あぁそうだ。代用品は所詮代用品でしかない。
過ぎたる力でもって、本物を得ようとしたが…所詮それは代用でしかなかった。
そんなものを得ようとした結果が…今の私なのだ」
この男の過去には何かあったらしい。
私は無言のまま坂道を登り、橋へとさしかかった。
橋は手すり代わりのロープが左右に1本ずつ通されただけの、簡素な吊り橋だった。
しかし、その距離が恐ろしく長い。

「ミールガルさん。良くこんな所歩けますね…」
「まぁ、こういったところでないと、この国では私も生きていけないのだ。
それも向こう岸で話そう」
ミールガルはそう促すので、私も頷き返す。
多分世捨て人のような存在なのだろう。
不安定な吊り橋でのバランスをとりつつ、
橋の向こうで話してくれるであろう何かの秘密に、私は不謹慎ながら心を躍らせた。
* * *

橋を渡りきった先は崖、そしてそこには一つの天幕。
元は軍事の拠点か何かだったのだろうか。
ミールガル一人ではとうてい運べないような木箱が沢山積まれている。
天幕の中の粗末な椅子に腰をかけ、また私も促され腰をかける。
テーブルに肘をつき、ミールガルは口を開いた。
「さて…何から話そうか…とりあえず改めて自己紹介でもしようか。
私はミールガル…ラヘルフレイヤ教団の…大神官の地位にあったこともある」
「え!?そうなんですか?それが何故こんな所に…」
そう言われても、身なりは粗末な貫頭衣、
天幕の中にあるのも生活に必要な最低限の物しかなく、
到底そんな立場の人間には見えない。
「自らの欲…というより、人としての禁忌に触れてしまったのだ。
勿論地位は自らの犯した罪で失われて、今この地にある。
その理由を…私が貴方に伝えたいというか…
自らの懺悔を聴いてもらいたいだけかもしれないが…聴いてくれないか?」
「そんなことを、何故通りすがった私に?」
秘密は好きだ。そして其れを自分だけの物にしたときは心躍る。
しかし、其れに伴いそれなりのリスクを負うのは常だ。
聴くことについては全く異論が無いのだが、
この問いに対する返答でそのリスクを図りたい、そう思ったのだ。
勿論どんな返事であろうとも聴くつもりなのだが。
「さっきも言ったのだが、聞き取れなかっただろうか。
奇跡を信じてみたくなっただけだ。貴方が私にこの時に出会ったという奇跡に賭けて」
「ということは、通りがかったのが私じゃなくても、
これから語る話をしていたかも、と言うことですか?」
しばしの逡巡のあと、ミールガルは答え始めた。
「…いや、多分……貴方だから話すのだろうと思う。
私を助けてくれたと言うことを抜きにしても…巧くは言えないが」
「私も、此処だけの話で言ってしまいますが、元の生業は暗殺者です。
過去に任務として、人を殺めたことも、あります。
そんな私を信じる事ができますか?」
「……この国も宗教国家といえ、いや、だからこそ派閥争いが数多くあり、
他人を蹴落とす等はまだ優しい方で、暗殺なども普通にあった。
そんな輩を何度か見ているから、そう驚くことでもない…
とはいえ、貴方はそう見えないんだがなぁ」
要は根が善良なのだろう。
そしてそんな人間が何をやったか、私の方こそそうは見えない。
結局話を聴かねば、どんな人物か判らないといったところだろう。
「判りました。
私の素性を聴いてもそこまで信頼してくれるのでしたら、お聞きしましょう」
「ありがたい…これを話したとしても、私の罪が無くなるわけではないが…
その前にまずは、この国の情勢を話さねばなるまい。
長くなるかも知れないが、聴いてくれると助かる。」
そう言うとミールガルは私の目を見つつ唇を開いた。
* * *
「この国はフレイヤ神をいただき、信仰している国だった。
敬虔な信徒が、神の代行者である教皇に遣えるという形で、治められている。
そして、この国は他国からの介入を受けず、永き年月を送っていた。
が、数年前だろうか…この国に見知らぬ者達が立ち入るようになった。
国教の関所があるにも関わらずだ。内通者が居たのだろう。
そして数ヶ月の間にその者達は神殿にすら現れるようになった」
「その者達は…?」
「隣国、シュヴァルツヴァルド共和国の者達だった。
この国には元々無い、機械というものを持ち込んできた。
貴方はラヘルを通って来たのだろうが、
そのラヘルの近郊に、飛行船港が出来ていることに気がついただろうか?」
「えぇ、私も飛行船で此処まで来たのですよ」
ということは…やはりレゲンシュルム研究所の連中に間違いなさそうだ。
以前飛行船の船長のペルロックに聴いたことがある。
飛行船の飛行動力について尋ねたところ、
ルーン機関という機巧が使われていると教えられた。
ルーン機関と称されていたが、その実は擬似ユミルの心臓であり、
それを納品していたのは、言わずと知れたレッケンベル社だった。
既に飛行船が整備された頃から、奴らはこの国に食い込んできていたのか。
「そうだったのか。あの飛行船港も、彼らが作ったものだった。
あの当時はまだ他国人の入国を許してはいなかったのだが、
思えば、アレだけは普通に流入していた。
そして、この国の為になるからと、様々な機械を持ち込んできたのだ」
「様々な機械とは…?」
「色々だ。主に蒸気を使う機械が殆どではあったが。
峡谷の村ベインスでは、鉱石を採掘するのに、また精錬するのに用いられていると聴く。
しかし、ことラヘルに至っては、それとは異なる機械が運び込まれたのだ」
ミールガルは一息をつき、天幕の外に目を向けた。
「見てのとおり、この国は荒れ地だらけ。国力は貧しい方だろう。
しかし、ラヘルには綺麗な水が湛えられているのを見ただろうか?
その機械は万能であるらしく、相当深い地下層から水を汲み出し、浄化しているらしい。
これを見た私を含む当時の神殿関係者は感嘆の声を上げた。
神の技術だと、称えたものだった。
これにより、彼らの地位は神殿内でも確固たるものとなった」
らしくない。連中は人の為になるようなことをするとは。
私の疑念は次にミールガルから発せられた言葉で、納得させられた。
「それからだ。神殿内のタカ派の連中が活気づき始めたのは。
神殿内にはフレイヤ神以外の神をよしとせず、全て排するべきだとする者も多数居た。
彼らを招き入れたのは、このタカ派の連中で、
連中が彼らに期待していたのは、他国を侵略するべき武力の提供だった…」
思えば、先のSwordianも、その武力の一部だったのだろう。
実験がしたい者、金儲けをしたい者、各々の目的を遂げられる、
それらが集まったのが、レッケンベル社という企業体であったというわけだ。
「その内、神殿内部での意思統一を図る必要があると、タカ派の幹部が考え始めたのだろう。
穏健派である私達に声をかけてきたのだ。
『こちらは強大な力を持っている。それを見せてやるから、こい』と。
そして、私はそこで…私が過ちを犯す発端となるものを目の当たりにした。
それが、ドッペルゲンガー発生装置だった」
武力の提供の一部が、ドッペルゲンガーを生み出す機巧か…。
先の事件の中で、ドッペルゲンガーの素体とされた人物が救出されたと聞いたが…
当然、他にもいるのだろう。話の上の時系列が、先の事件と一致していない可能性もあるが、
あの機巧は、別の場所でも未だ使い続けられているというわけか…
そして、ミールガルの独白はまだ続く。
「…私は見て驚いた。
無から有を生み出す、その力。
……実は私は、最愛の妻を事故で亡くしていた。
私は大神官の地位に在らざる。不信心者であったのだろうな。
フレイヤ神すら、妻を亡くした時は呪ったのだから。
そして、これを目の当たりにした時、現金なものでフレイヤ神に感謝した」
一息ついて、ミールガルは言った。
「………これで、妻を再び取り戻せないかと」
「! まさか…」
「そのまさかだ。私は進んでタカ派に追従し、取り入って…
その研究者から、ドッペルゲンガーの機巧を一式譲り受けたのだ。
しかし、彼の説明では、出来るはずが無いと言っていたのだがね。
その時の私は信じなかった」
あの、擬似ユミルの心臓で作り上げたドッペルゲンガーは、
その本体である人物が生きていないと、存在しえない。
もしも、その本体である人物が死んでしまうと、即座にドッペルゲンガーも消滅してしまう。
そんな記録を過去に見たことがある。
そうであれば、既に死んでいる者のドッペルゲンガーはあり得ないということになる。
「傍目から見れば、私の行い、言動は理解しがたいものだっただろう。
妻が甦るかも知れないと、吹聴して回ったりもした…本当に愚かだった。
そして、私は神殿の聖域の一室に機巧を持込み、閉じこもった。
誰にも邪魔されたくなかったからだ」
「聖域…とは?」
「文字通り、禁忌とされている場所だったが…その実は武力の実験場だった。
上中層では信者を訓練し、最下層では…フレイヤに仇為す者へ天誅を下す為の、
神の僕を作る等と言うことを行っていたらしいが…
ともあれ私は中層にて妻の蘇りを期待し、ドッペルゲンガーの機巧を動かした。
せめて依代が必要だろうと、妻の遺髪を添えて……そして必死に願い祈って…」
「…それが、失敗したのですね?」
彼が此処にいる理由からすれば、失敗したと考えるのが自然だ。
思わず私の口から、言葉が漏れた。しかし、
「そうではない。奇跡的に成功したのだ。
私の願いが通じたのか、以前に見たドッペルゲンガー生成の時以上の出力が機械に発生して、
妻は、生来の姿を取り戻したのだ…が、彼女は、所詮妻ではなかったのだ。
彼女は一瞬、私に微笑みを返してくれたかと思うや否や、
笑みを浮かべたまま、すさまじい力でもって私に掴みかかってきたのだ!
妻は、私の事を忘れていたのだ。慌てて私は、妻の形のしたモノを振り払い、逃げ出した…」
成功するはずのないはずの…奇跡か。
私自身、調べた結果の伝え聴きだから、私も良くわからないが、
稀にそんなことがあるのだろうか…。
そしてあったとして、暴走が起きたのか…
仮初めの存在に魂が宿るとは…正直私も理解し難い。
「そして、此処に居る、と…」
「そう言うことだ。私は全てを棄てて逃げてきた。
多分、聖域の中層には、彼女が闊歩し、
聖域で作られているであろう、兵器を破壊しているのか…
はたまた、彼女もまた兵器として使われるのか判らないが…」
「……彼らは…レゲンシュルムの研究員は、自分の実験成果を示したがります。
また、新たな実験成果が出たとなれば…研究材料として必ず手を下すでしょう。
そして何らかの手段で捕らえられているとすれば…使われる運命にあるでしょう…ね」
私は、敢えてミールガルに告げた。
多分、これが起こるべくして起こるであろう、現実だ。
「…なんとなく、思ったのだ。貴方は何かを識っていると。
何も知らない人であれば、興味を持たないか、危険事だと引き下がるだろう。
だから、私も打ち明けた…」
私は、無言で頷く。
経緯を知っているという、無言の肯定だ。
「隠遁生活を初めて、考えた。
意図せずとはいえ、結果自ら生み出されてしまった彼女を、還してあげたいと。
魂は無きにしろ、あの姿が…いつか世に何らかの凶行を及ぼすとしたら…
それは、悲しすぎるのだ、誰かに止めて貰いたい…。
既に私には神の声は聴こえず、神の奇跡を行使することすら、もう出来ない。
この話を聴いてくれた貴方に…もしも出来るのであれば…」
「確約はできませんが、ミールガルさん。何とか出来れば、しましょう」
ミールガルの会話を遮り、私は返事をした。
どのみち、連中を追う為に、この国の裏を探る必要はあるのだから。
そのついでで、何とか出来るのなら、するのはやぶさかではない。
まぁ…私的に考えれば、あり得ないことが起こったという、
そのドッペルゲンガーを一度見てみたいというのもあるが。
私自身は世間一般的な常識(勿論私の常識という範疇ではあるが)
正しいことをやっている、またやっていくつもりでいる。
だから、基本的には連中の企みを潰せるのであれば、潰すつもりだ。
ミールガルの無くなった奥さんのドッペルゲンガー化と、
レゲンシュルムの連中の研究とは関係が、もしかしたら無いのかも知れないが、
乗りかかった船というか…私の行動原理である、興味を惹かれるものではあるので、
とりあえずやるだけやってみようと思ったのだ。
「ありがたい…が、見てのとおり、私は何も貴方に差し上げる事が出来ない。
かつての立場であれば、礼も出来ただろうが…今の私が出来る事はこれぐらいしかない…」
ミールガルはそう言うと、羊皮紙と羽ペン、インクを取り出し、何事か書き始めた。
「これでいい。かつての同僚、ジェドに一筆したためた。
彼は神殿内の穏健派だった。今も多分そうだと思う。
彼の助力を受ける事が出来れば、状況を探る事が出来るかもしれない」
そういうと、ミールガルは書状を私に差し出した。
「同僚…ということは、大神官ですね?」
「あぁ。その通りだ。
ただ、知ってのとおりこの国は排他的な性質が根強く残っている。
まずは、神殿に入る為のきっかけが必要になると思う」
「きっかけ、ですか?」
「神殿の門は…少なくとも私が大神官であったころは、固く閉じられていた。
今どう変わっているかが判らないが…多分同じだろう。
何か判らないことがあれば、尋ねてきて貰えれば応えることが出来ると思う……
尻ぬぐいをさせてしまって、申し訳ないが…よろしく、頼む」
そう言い、頭を下げるミールガル。
その表情は見えないが、多分涙を流しているのだろう。
テーブルに1つ2つ、雫が落ちたのが見てとれた。
「顔を上げてください。私がしたいから、するんです。
私的にも、この国の内情を知っている方と直ぐに知り合えた事は幸運でしたしね。
出来る限りですが、奥さんの魂は救ってみたいと思います。
では、早速ですが…」
「あぁ…よろしく、頼む」
ミールガルは顔を上げ、直ぐその目元を袖で拭きながら、
傍らにある棒を手に取り、よろめきながらも立ち上がり見送ってくれた。
* * *
私はまた長い吊り橋に揺られながら、思った。
『連中は何を考えて此処に来たのだろうか』と。
話を思い出せば先のプロンテラ内で行われていた『実験』というよりは、
国に取り入って、またその国を操ろうという感じの方が強い。
そして立ち向かう相手は、研究員個人でなく、国という組織になるかもしれない。
先のシュヴァルツヴァルド共和国でのような、カール大統領の後ろ盾などがあるならともかく、
此処は完全に異邦の地。頼るべき人は…この書状の相手、ジェド大神官しか居ないと思える。
だとすれば、不本意ながらも協力者を募ることを考えるべきか。
しかしながら団体行動は私自身苦手なので少数精鋭が、望ましい…。
ひとまず出直すべきかもしれない。
なにぶん相手が相手になりそうだからこそ、
生半可な同行者では、命を落とすことにもなりかねない。
正直、ティオにも黙っておいた方が良さそうだな…あとでまた怒られるだろうが…
ひとまず古巣でもあるゲフェンに戻ってみよう。
タワー横の人達なら、皆私以上に腕に覚えがありそうだ。
そう考えた私は、蝶の羽を取り出し、その魔力を解放した。
視界がぐらりと揺らぐ…!
第2話 偽りの安寧、偽りの存在
私はミールガルの願いを聞き入れ、彼を背負いながら坂道を登っていった。
「ところで、貴方はあちらの神官かなにかでは無いのか?
先ほどオーディンを信仰しても居ないと言っていたが…」
耳元でミールガルが囁く。
外国の者が入り込んでいる事を知らない以上、外国の情報は皆無なのだろう。
「いえ。私は…珍しいモノを探すことを至上命題として生きている、
ただの探索者ですよ。この国にもそう言った類のモノを探しに来ただけです。
だから、神には仕えていません」
「ふむ…ならば、何故神の奇跡を行使できる?
少なくとも、今私は打撲や骨折の痛みを感じていないのだが」
どうやら魔力のあるカードについても良くわからないらしい。
私はクリップを見せこう言った。
「これです。このクリップに着いているカード…
モンスター達の力を封じたものだそうですが、
この力を行使することで、神の奇跡にも似た力を使うことが出来るのですよ」
しげしげと見つめるミールガル。
「こんなもので…信仰心が無くとも使えるというのか。
…奇跡の代用品は、こんな所にも広がっているのだな…」
「代用?」
「あぁそうだ。代用品は所詮代用品でしかない。
過ぎたる力でもって、本物を得ようとしたが…所詮それは代用でしかなかった。
そんなものを得ようとした結果が…今の私なのだ」
この男の過去には何かあったらしい。
私は無言のまま坂道を登り、橋へとさしかかった。
橋は手すり代わりのロープが左右に1本ずつ通されただけの、簡素な吊り橋だった。
しかし、その距離が恐ろしく長い。

「ミールガルさん。良くこんな所歩けますね…」
「まぁ、こういったところでないと、この国では私も生きていけないのだ。
それも向こう岸で話そう」
ミールガルはそう促すので、私も頷き返す。
多分世捨て人のような存在なのだろう。
不安定な吊り橋でのバランスをとりつつ、
橋の向こうで話してくれるであろう何かの秘密に、私は不謹慎ながら心を躍らせた。
* * *

橋を渡りきった先は崖、そしてそこには一つの天幕。
元は軍事の拠点か何かだったのだろうか。
ミールガル一人ではとうてい運べないような木箱が沢山積まれている。
天幕の中の粗末な椅子に腰をかけ、また私も促され腰をかける。
テーブルに肘をつき、ミールガルは口を開いた。
「さて…何から話そうか…とりあえず改めて自己紹介でもしようか。
私はミールガル…ラヘルフレイヤ教団の…大神官の地位にあったこともある」
「え!?そうなんですか?それが何故こんな所に…」
そう言われても、身なりは粗末な貫頭衣、
天幕の中にあるのも生活に必要な最低限の物しかなく、
到底そんな立場の人間には見えない。
「自らの欲…というより、人としての禁忌に触れてしまったのだ。
勿論地位は自らの犯した罪で失われて、今この地にある。
その理由を…私が貴方に伝えたいというか…
自らの懺悔を聴いてもらいたいだけかもしれないが…聴いてくれないか?」
「そんなことを、何故通りすがった私に?」
秘密は好きだ。そして其れを自分だけの物にしたときは心躍る。
しかし、其れに伴いそれなりのリスクを負うのは常だ。
聴くことについては全く異論が無いのだが、
この問いに対する返答でそのリスクを図りたい、そう思ったのだ。
勿論どんな返事であろうとも聴くつもりなのだが。
「さっきも言ったのだが、聞き取れなかっただろうか。
奇跡を信じてみたくなっただけだ。貴方が私にこの時に出会ったという奇跡に賭けて」
「ということは、通りがかったのが私じゃなくても、
これから語る話をしていたかも、と言うことですか?」
しばしの逡巡のあと、ミールガルは答え始めた。
「…いや、多分……貴方だから話すのだろうと思う。
私を助けてくれたと言うことを抜きにしても…巧くは言えないが」
「私も、此処だけの話で言ってしまいますが、元の生業は暗殺者です。
過去に任務として、人を殺めたことも、あります。
そんな私を信じる事ができますか?」
「……この国も宗教国家といえ、いや、だからこそ派閥争いが数多くあり、
他人を蹴落とす等はまだ優しい方で、暗殺なども普通にあった。
そんな輩を何度か見ているから、そう驚くことでもない…
とはいえ、貴方はそう見えないんだがなぁ」
要は根が善良なのだろう。
そしてそんな人間が何をやったか、私の方こそそうは見えない。
結局話を聴かねば、どんな人物か判らないといったところだろう。
「判りました。
私の素性を聴いてもそこまで信頼してくれるのでしたら、お聞きしましょう」
「ありがたい…これを話したとしても、私の罪が無くなるわけではないが…
その前にまずは、この国の情勢を話さねばなるまい。
長くなるかも知れないが、聴いてくれると助かる。」
そう言うとミールガルは私の目を見つつ唇を開いた。
* * *
「この国はフレイヤ神をいただき、信仰している国だった。
敬虔な信徒が、神の代行者である教皇に遣えるという形で、治められている。
そして、この国は他国からの介入を受けず、永き年月を送っていた。
が、数年前だろうか…この国に見知らぬ者達が立ち入るようになった。
国教の関所があるにも関わらずだ。内通者が居たのだろう。
そして数ヶ月の間にその者達は神殿にすら現れるようになった」
「その者達は…?」
「隣国、シュヴァルツヴァルド共和国の者達だった。
この国には元々無い、機械というものを持ち込んできた。
貴方はラヘルを通って来たのだろうが、
そのラヘルの近郊に、飛行船港が出来ていることに気がついただろうか?」
「えぇ、私も飛行船で此処まで来たのですよ」
ということは…やはりレゲンシュルム研究所の連中に間違いなさそうだ。
以前飛行船の船長のペルロックに聴いたことがある。
飛行船の飛行動力について尋ねたところ、
ルーン機関という機巧が使われていると教えられた。
ルーン機関と称されていたが、その実は擬似ユミルの心臓であり、
それを納品していたのは、言わずと知れたレッケンベル社だった。
既に飛行船が整備された頃から、奴らはこの国に食い込んできていたのか。
「そうだったのか。あの飛行船港も、彼らが作ったものだった。
あの当時はまだ他国人の入国を許してはいなかったのだが、
思えば、アレだけは普通に流入していた。
そして、この国の為になるからと、様々な機械を持ち込んできたのだ」
「様々な機械とは…?」
「色々だ。主に蒸気を使う機械が殆どではあったが。
峡谷の村ベインスでは、鉱石を採掘するのに、また精錬するのに用いられていると聴く。
しかし、ことラヘルに至っては、それとは異なる機械が運び込まれたのだ」
ミールガルは一息をつき、天幕の外に目を向けた。
「見てのとおり、この国は荒れ地だらけ。国力は貧しい方だろう。
しかし、ラヘルには綺麗な水が湛えられているのを見ただろうか?
その機械は万能であるらしく、相当深い地下層から水を汲み出し、浄化しているらしい。
これを見た私を含む当時の神殿関係者は感嘆の声を上げた。
神の技術だと、称えたものだった。
これにより、彼らの地位は神殿内でも確固たるものとなった」
らしくない。連中は人の為になるようなことをするとは。
私の疑念は次にミールガルから発せられた言葉で、納得させられた。
「それからだ。神殿内のタカ派の連中が活気づき始めたのは。
神殿内にはフレイヤ神以外の神をよしとせず、全て排するべきだとする者も多数居た。
彼らを招き入れたのは、このタカ派の連中で、
連中が彼らに期待していたのは、他国を侵略するべき武力の提供だった…」
思えば、先のSwordianも、その武力の一部だったのだろう。
実験がしたい者、金儲けをしたい者、各々の目的を遂げられる、
それらが集まったのが、レッケンベル社という企業体であったというわけだ。
「その内、神殿内部での意思統一を図る必要があると、タカ派の幹部が考え始めたのだろう。
穏健派である私達に声をかけてきたのだ。
『こちらは強大な力を持っている。それを見せてやるから、こい』と。
そして、私はそこで…私が過ちを犯す発端となるものを目の当たりにした。
それが、ドッペルゲンガー発生装置だった」
武力の提供の一部が、ドッペルゲンガーを生み出す機巧か…。
先の事件の中で、ドッペルゲンガーの素体とされた人物が救出されたと聞いたが…
当然、他にもいるのだろう。話の上の時系列が、先の事件と一致していない可能性もあるが、
あの機巧は、別の場所でも未だ使い続けられているというわけか…
そして、ミールガルの独白はまだ続く。
「…私は見て驚いた。
無から有を生み出す、その力。
……実は私は、最愛の妻を事故で亡くしていた。
私は大神官の地位に在らざる。不信心者であったのだろうな。
フレイヤ神すら、妻を亡くした時は呪ったのだから。
そして、これを目の当たりにした時、現金なものでフレイヤ神に感謝した」
一息ついて、ミールガルは言った。
「………これで、妻を再び取り戻せないかと」
「! まさか…」
「そのまさかだ。私は進んでタカ派に追従し、取り入って…
その研究者から、ドッペルゲンガーの機巧を一式譲り受けたのだ。
しかし、彼の説明では、出来るはずが無いと言っていたのだがね。
その時の私は信じなかった」
あの、擬似ユミルの心臓で作り上げたドッペルゲンガーは、
その本体である人物が生きていないと、存在しえない。
もしも、その本体である人物が死んでしまうと、即座にドッペルゲンガーも消滅してしまう。
そんな記録を過去に見たことがある。
そうであれば、既に死んでいる者のドッペルゲンガーはあり得ないということになる。
「傍目から見れば、私の行い、言動は理解しがたいものだっただろう。
妻が甦るかも知れないと、吹聴して回ったりもした…本当に愚かだった。
そして、私は神殿の聖域の一室に機巧を持込み、閉じこもった。
誰にも邪魔されたくなかったからだ」
「聖域…とは?」
「文字通り、禁忌とされている場所だったが…その実は武力の実験場だった。
上中層では信者を訓練し、最下層では…フレイヤに仇為す者へ天誅を下す為の、
神の僕を作る等と言うことを行っていたらしいが…
ともあれ私は中層にて妻の蘇りを期待し、ドッペルゲンガーの機巧を動かした。
せめて依代が必要だろうと、妻の遺髪を添えて……そして必死に願い祈って…」
「…それが、失敗したのですね?」
彼が此処にいる理由からすれば、失敗したと考えるのが自然だ。
思わず私の口から、言葉が漏れた。しかし、
「そうではない。奇跡的に成功したのだ。
私の願いが通じたのか、以前に見たドッペルゲンガー生成の時以上の出力が機械に発生して、
妻は、生来の姿を取り戻したのだ…が、彼女は、所詮妻ではなかったのだ。
彼女は一瞬、私に微笑みを返してくれたかと思うや否や、
笑みを浮かべたまま、すさまじい力でもって私に掴みかかってきたのだ!
妻は、私の事を忘れていたのだ。慌てて私は、妻の形のしたモノを振り払い、逃げ出した…」
成功するはずのないはずの…奇跡か。
私自身、調べた結果の伝え聴きだから、私も良くわからないが、
稀にそんなことがあるのだろうか…。
そしてあったとして、暴走が起きたのか…
仮初めの存在に魂が宿るとは…正直私も理解し難い。
「そして、此処に居る、と…」
「そう言うことだ。私は全てを棄てて逃げてきた。
多分、聖域の中層には、彼女が闊歩し、
聖域で作られているであろう、兵器を破壊しているのか…
はたまた、彼女もまた兵器として使われるのか判らないが…」
「……彼らは…レゲンシュルムの研究員は、自分の実験成果を示したがります。
また、新たな実験成果が出たとなれば…研究材料として必ず手を下すでしょう。
そして何らかの手段で捕らえられているとすれば…使われる運命にあるでしょう…ね」
私は、敢えてミールガルに告げた。
多分、これが起こるべくして起こるであろう、現実だ。
「…なんとなく、思ったのだ。貴方は何かを識っていると。
何も知らない人であれば、興味を持たないか、危険事だと引き下がるだろう。
だから、私も打ち明けた…」
私は、無言で頷く。
経緯を知っているという、無言の肯定だ。
「隠遁生活を初めて、考えた。
意図せずとはいえ、結果自ら生み出されてしまった彼女を、還してあげたいと。
魂は無きにしろ、あの姿が…いつか世に何らかの凶行を及ぼすとしたら…
それは、悲しすぎるのだ、誰かに止めて貰いたい…。
既に私には神の声は聴こえず、神の奇跡を行使することすら、もう出来ない。
この話を聴いてくれた貴方に…もしも出来るのであれば…」
「確約はできませんが、ミールガルさん。何とか出来れば、しましょう」
ミールガルの会話を遮り、私は返事をした。
どのみち、連中を追う為に、この国の裏を探る必要はあるのだから。
そのついでで、何とか出来るのなら、するのはやぶさかではない。
まぁ…私的に考えれば、あり得ないことが起こったという、
そのドッペルゲンガーを一度見てみたいというのもあるが。
私自身は世間一般的な常識(勿論私の常識という範疇ではあるが)
正しいことをやっている、またやっていくつもりでいる。
だから、基本的には連中の企みを潰せるのであれば、潰すつもりだ。
ミールガルの無くなった奥さんのドッペルゲンガー化と、
レゲンシュルムの連中の研究とは関係が、もしかしたら無いのかも知れないが、
乗りかかった船というか…私の行動原理である、興味を惹かれるものではあるので、
とりあえずやるだけやってみようと思ったのだ。
「ありがたい…が、見てのとおり、私は何も貴方に差し上げる事が出来ない。
かつての立場であれば、礼も出来ただろうが…今の私が出来る事はこれぐらいしかない…」
ミールガルはそう言うと、羊皮紙と羽ペン、インクを取り出し、何事か書き始めた。
「これでいい。かつての同僚、ジェドに一筆したためた。
彼は神殿内の穏健派だった。今も多分そうだと思う。
彼の助力を受ける事が出来れば、状況を探る事が出来るかもしれない」
そういうと、ミールガルは書状を私に差し出した。
「同僚…ということは、大神官ですね?」
「あぁ。その通りだ。
ただ、知ってのとおりこの国は排他的な性質が根強く残っている。
まずは、神殿に入る為のきっかけが必要になると思う」
「きっかけ、ですか?」
「神殿の門は…少なくとも私が大神官であったころは、固く閉じられていた。
今どう変わっているかが判らないが…多分同じだろう。
何か判らないことがあれば、尋ねてきて貰えれば応えることが出来ると思う……
尻ぬぐいをさせてしまって、申し訳ないが…よろしく、頼む」
そう言い、頭を下げるミールガル。
その表情は見えないが、多分涙を流しているのだろう。
テーブルに1つ2つ、雫が落ちたのが見てとれた。
「顔を上げてください。私がしたいから、するんです。
私的にも、この国の内情を知っている方と直ぐに知り合えた事は幸運でしたしね。
出来る限りですが、奥さんの魂は救ってみたいと思います。
では、早速ですが…」
「あぁ…よろしく、頼む」
ミールガルは顔を上げ、直ぐその目元を袖で拭きながら、
傍らにある棒を手に取り、よろめきながらも立ち上がり見送ってくれた。
* * *
私はまた長い吊り橋に揺られながら、思った。
『連中は何を考えて此処に来たのだろうか』と。
話を思い出せば先のプロンテラ内で行われていた『実験』というよりは、
国に取り入って、またその国を操ろうという感じの方が強い。
そして立ち向かう相手は、研究員個人でなく、国という組織になるかもしれない。
先のシュヴァルツヴァルド共和国でのような、カール大統領の後ろ盾などがあるならともかく、
此処は完全に異邦の地。頼るべき人は…この書状の相手、ジェド大神官しか居ないと思える。
だとすれば、不本意ながらも協力者を募ることを考えるべきか。
しかしながら団体行動は私自身苦手なので少数精鋭が、望ましい…。
ひとまず出直すべきかもしれない。
なにぶん相手が相手になりそうだからこそ、
生半可な同行者では、命を落とすことにもなりかねない。
正直、ティオにも黙っておいた方が良さそうだな…あとでまた怒られるだろうが…
ひとまず古巣でもあるゲフェンに戻ってみよう。
タワー横の人達なら、皆私以上に腕に覚えがありそうだ。
そう考えた私は、蝶の羽を取り出し、その魔力を解放した。
視界がぐらりと揺らぐ…!
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