誰かの遺産が私に舞い込む

風が辿る路　～Wanderer of wind～
　
第２話　沼地の死闘

パーティでの狩りにあこがれつつも、今は転生前の力を取り戻す必要があると考え、
自分一人のスキルだけでもそれなりの修練を積むことが出来る場所、
南のリゾート地コモドへ向かう道、より少し道を外れた湿地帯…
現地に住む民はジナイ沼と呼んでいる…にやってきた。
立地条件の影響で人気が少ないという点から、
先の手記にも書いたグリムトゥースが使いやすく、私的にいい狩り場だと思っている。

ここに居る主な脅威となる敵は…
ペストと呼ばれる毒蛇（地中を潜って襲ってくることがあり時に脅威になる）
この沼を住処としているリザードマンことアノリアン（繰り出す剣技は強靱かつ正確）
そして、伝説に寄れば竜の肝を喰らった人間が、その呪いにより半人半竜と化し、
その肉体は死しても再び蘇り、永劫の死を体験させられているという、ミュータントドラゴン。
（その腕はただ振り回しただけでも十分な脅威だが、一番の脅威は剣士が使うマグナムブレイク。
　人間だった頃が剣士であったのかは定かでないが、自らが内包する火炎の力と相まって、
　近づく物をその業火で焼き尽くす程の威力がある）

転生前でこそ正面切って戦えたが、今の私では力不足。
やるとしたら…新たに得た力、ソウルブレイカーが頼みの綱になるが、
まぁ…そうそう出会うこともないだろう。
今日はアノリアンを相手に修行をしにきたのだ…。



２００体。とりあえず倒したアノリアンの総数。
手持ちの戦利品も重くなってきた。これ以上物も持てないだろうから、
一度コモドに戻ってカプラ職員に預けるなり、売るなりしよう。
そう思った矢先だった。

グォォォォォォォォォォォーーーーーーー！！！

すさまじい雄叫びが辺りに響き渡った。
転生前にも何度か戦ったことがある、ヤツの声だ。
そう、ミュータントドラゴンが、また死から目覚めたのだろう。

幸いヤツの足は遅いから、やり過ごして帰ることはできる。
しかし、一度目を付けられると無詠唱のファイアボールでこちらの逃走を阻まれ、
ゆっくりとした足取りで近づき、その豪腕による攻撃が確実にこちらの防御を削り、
そしてトドメのマグナムブレイクで、死が待っている。

迷うことはなかった。
トレジャーハンター（自称）たる私は、まだ見ぬ財宝を求めて旅をしているのだ。
このような大物に出会えた事こそ好機。
対抗手段は、ソウルブレイカーと、愛用のフォーチュンソードが二刀。
これに毒液を塗りつけて……必殺の毒ブレイカーを叩き込むべく、
雄叫びがした方向へと、静かに向かう。

場所は沼に架かる橋のほとり。
そこに奴は居た。
さながら沼の主のように、これから沼を徘徊するのだろう。
どこかに行ってしまう前に、そして新手が現れる前に、
速やかにこの怪物を倒さなければならない。

しかし、気配を断ち近づいたつもりだったが、先制攻撃は奴の方だった。
ボンッ！と、突然の熱気が私の身体を焼く。ファイアボールが私に叩きつけられたのだ。
慌ててこちらもソウルブレイカーの詠唱に入る。
短いとはいえ精神集中が必要になるのだ。そしてこの大技は連発は出来ない。
「ディムハーネルト…ミィディルム…ケルガ………」
近づかれながらも、詠唱を済ませ…
「えぇぇぇい！！」
気合いと共に短剣を振るう！
空気を震わせつつ発生した、極大の剣閃が奴の身体を切り裂いた！！

しかし、私は直ぐに間合いを取る為、じりじりと後退を始めた。
前世の経験から奴のタフさは知っていた。
２，３回ソウルブレイカーを叩き込んだ所で、倒せる相手では無い。
問題はこちらの精神力。
ソウルブレイカーはその威力に比例して、精神力を大きく疲弊する。
詠唱が伴う事も連発出来ない理由の一つだが、
それ以前に精神力がそこまで保たないのが最大の理由だったりする。
ある程度余力は残しておいたが、アノリアンの乱入等、余計な戦力が出てきた場合は、
保たない可能性も出てくる。だからこその速やかな殲滅が必要だったのだ。

しかし、予想どおりというか、想定内というか、
９回ブレイカーをミュータントドラゴンに叩き込んだ時に、
アノリアンが軽快なステップで近づいてきた。挟撃の状態である。
ここに至るまで、致命的な打撃となるマグナムブレイクは何とか回避していたものの、
ファイアボールや通常の攻撃は何度か被弾していた。
フォーチュンソードの加護のおかげでここまでに抑えられていたのかもしれない。
しかし、新手が来た今、次回避しきれるか判らない。

ずぅぅん！

私が飛び退いたところに、上段から振り下ろされたアノリアンの大剣が大地をえぐる。
すかさず飛び退き様、射程内にいるミュータントドラゴンにソウルブレイカーを放つ！
奴も相当傷ついてはいる。もう一押し。
だが、そこで間髪入れず、ミュータントドラゴンの腕からファイアボールが放たれる。
喰らって吹き飛ばされた先に更なる新手のアノリアンが２体。

多分２発を打ち込めば打ち倒せるハズのミュータントドラゴン。
それを阻む３体のアノリアン。

グリムトゥースを使えばアノリアンはさばけるかもしれない。
しかし精神力が保たない上、ミュータントドラゴンは隠れているのを見破る事が出来る為、
逆に自分がマグナムブレイクの餌食にされかねない…だとすれば……

私は今までと攻撃のフォームを変えてみた。
フォーチュンソードを両手に構え、詠唱を始める。まずは…
「我が身を誰とも知らぬ彼の地へ運べ…」
アノリアンが背後から押し寄せてくる足音が聞こえるが、
それには構わずテレポートの魔法を先行詠唱しておく。その上で
「ディムハーネルト…ミィディルム…ケルガ………」
ソウルブレイカーの詠唱。既にこの段階でアノリアンに囲まれつつあるが、
フォーチュンソードの幸運の加護のおかげで大きなダメージには至っていない。
「これで最後だっ！！！」

後続のアノリアンを振り切りながらミュータントドラゴンに駆け寄りつつ、
構えた短剣を、まずは右の短剣、間髪入れず左の短剣を下段から上段に切り上げた！
極大の剣閃、それがＸ（クロス）の形でミュータントドラゴンの身体へと向かう！

ガァァァッ！！！

ミュータントドラゴンも両手を振り上げ、最後のマグナムブレイクの体勢に入っていた。
しかし、灼熱の業火が私の身体を焼くことはなかった。
かろうじて先に届いた剣閃は、ミュータントドラゴンの振り上げた両手を切り落とし、
その一撃がトドメとなり、ゆっくりと倒れ伏したのだった。

私の精神力ももはや限界に来ていた。
ミュータントドラゴンの骸から転げ落ちた物に気付いた私は、それを確認せずに掴み、
アノリアン達をやり過ごす為にも、先行詠唱しておいたテレポートの魔法を発動させ、その場を切り抜けた。
転移するときに、アノリアン達の罵りの声が聞こえたが、
気が付いた時には別の場所へと移動していた。

掴んだ物を今更ながら確認してみたところ、それは一冊の本。
中を開いてみると、古代語とおぼしき文章が。
中身を読み解いて見ると、これこそがドラゴンの遺産と呼ばれる、
至宝であることがわかった。
竜族の起源と歴史がつづられている本であり、
アノリアン達はこの本を狙っていたのかもしれない。
種族的にリザードマンとドラゴンは近しいものという説が、
いつだったかジュノーのセージキャッスルにあった書物で読んだことがある。
きっとドラゴンへの進化の方法でも、この中に載っているのだろう。

ともあれ、新たなレア物を手に入れることが出来たのは嬉しい限りだ。
今日はコモドで一杯やって行けそうだ。

次は…何処に流れていこうかな。