失われし者の幻影　～RO World Seeker Zwei～

第１話　堕とされし者

私はフェン＝ガルーダイン。
とりあえずトレジャーハンターを自称している、アサシンクロスだ。
珍しいモノを見つける・手に入れる事を至上の喜びとし、
私は色々な所に赴き、そして時には様々な事件に遭遇し、
また別な時には強大な敵と対峙し、数々の困難を乗り越えて、
得難いモノを得る事を至上の目的として旅を続けている。

一般には公開されていない先の事件。
レゲンシュルム研究所の残党ともいえる研究者達。
その内の一部が引き起こした、損なわれない兵を創り出す機構の実験、
そしてそれに要する民間人、冒険者の誘拐…
これを解決するべく、私は道中様々な人達の手を借りつつ、
フェイヨン付近の未開の地に創られていた研究所を、結果壊滅させ、
とりあえずの事態の収束を図ることに成功した。

しかし、気になることがあった。
闘いの最中、組織のトップであったであろうレジメンスはこう言っていた。
『シュヴァルツヴァルド共和国の更なる西方。
　宗教国家アルナベルツ教国がある。今は国境が閉ざされているがな。
　そこからのオーダーだ』
またあの時、レジメンスは蝶の羽で逃走を図ろうともしていた。
ただの再起を図る為の一時的転進とも考えられるが…
『他の奴等のユミルの心臓を用いた研究に、私が劣る事になる』
とも言っていたことから、間違いなく水面下で動いている研究者は他にも居るだろう。

だとすれば、また何らかの動きを、それこそラヘルという未知の国の中で行うというのは、
一番効率的であり、隠蔽もしやすいといったところであろう。

私はこの事件の報告がてら、カール＝テオドール＝ワイエルストラウス大統領に、
国境検問の解放を要求し、それが現実に行われてから既に２ヶ月。
既に相当数の冒険者がアルナベルツ教国国領内に入ったと思われる。

元々閉鎖的な国だ。
そこに得体の知れない流れ者的存在たる、私達冒険者がふらりと立ち寄ったところで、
排斥を受けるのは目に見えていた。宗教にかぶれているのならなおさらだ。
ある程度冒険者が見知らぬ存在とならなくなるまで、ある程度時間を起きたかったのだ。

自身の休息やら、プライベートな探索、嫁の修行にも付き合った。
勿論ラヘルから帰ってきた、他の冒険者達のうわさ話に耳を傾けることも忘れない。
２日程、泊まり込みで飛行船に乗ってえらい目にもあった。
勿論ゲフェンタワー横やアルケミストリートなどに入り浸り、
情報収集がてら、そこに居るメンバーとの談笑も行っていた。

とりあえずこの２ヶ月間は、事態に向かう為の気分転換と同時に、
事前の情報収集として必要な期間であったとも言える。

そして私はラヘル行きの飛行船へ乗り込んだのだった。

＊　　　＊　　　＊

飛行船でアルナベルツ教国に向かった私は、事前に伝え聞いた事を思い出していた。

アルナベルツ教国は天帝フレイヤを信仰している…
ルーンミッドガッツ王国と信仰の対象が違い、またフレイヤは美の女神ともされている…
敬虔な信徒は（神と比較して）醜き自らの素顔を、布で出来たマスクをもって隠している…
教皇は幼いが滅多に人の前には姿を現さない…
存在している都市は、首都ラヘル、峡谷都市ベインスの２つ…
近隣に謎の神殿もあるらしいが、そこへ至る為の山道が崖崩れにより封鎖されているらしく、
そちらは全く状況がつかめないらしい…。

とりあえず、ラヘルでの人の噂を聴きながら、ベインスとやらに行ってみよう。
遠いところまで行って、そこから戻ってくる方が気が楽だ。

『ラヘルに到着します。到着時の揺れにご注意下さい。
　また、船が完全に停止するまでは、デッキから降りないよう御協力願います』

考えていた間に、もう到着するらしい。
飛行船のアナウンスがあたりに響いた。
船縁から身を乗り出して眼下を覗いてみると、荒野が広がってきた。

「なんだか、モロクみたいなところだな」

思わず口から感想が出てしまった。
此処の何処で、陰謀が進められているのか…
何となく思いつつ、私はアルナベルツ教国領の大地に足をおろした。

＊　　　＊　　　＊

「雰囲気もモロクと似てるが……」
やはり異国だ。
建築様式も異なるし、何より布を被った一団が時折通り過ぎる。
あれがフレイヤ教徒なのだろう。
そしてちらほらと同業者達の姿も見える。
良い感じに町にとけ込んでいるようだ。これなら私自身もそう怪しまれまい。
とりあえず、普通の冒険者のつもりで案内人の男に声をかけてみた。

「やあ、此処が首都ラヘルかい？」
「あぁそうだ。あんたも冒険者とか言われてるやつだな。
　この国の中で数少ない水の湧く所だ。
　長旅だったんだろうから、喉を潤していってくれ。程々にな？」
「あぁ。私も砂漠での生まれだから、水の貴重さについては理解してるさね。
　ところで、この国はどんな感じだい？来たばかりだから良くわからないもんでね。
　変わったこととかないかな？」

気の良さそうな男は、私の問いに快く応えてくれた。

「あー…まぁ見てのとおり荒野だらけの未開の地だが、
　私らはフレイヤ様を信じ、平穏無事に生きているよ。
　日々吹き付ける荒野の砂塵とかに悩まされることも多いが、
　とりあえず、良いこともないし悪いこともない。
　あぁ、でもあれだな。冒険者じゃないような奴らも立ち寄るようになったな…
　でも、神殿によく行っていたようだから、参拝にでも行ってるのかもしれないな」
「参拝？」

と、口に出してから今更ながら気づいた。
此処は宗教国家。国のトップは教団なのだ。

「あぁ。この通りをまっすぐ行って、中央広場を右に曲がれば…
　セスルムニル神殿、まぁ俺達は親しみやすくフレイヤ大神殿って呼んでるけどな。
　まぁ、そっちへ続く道になる。折角だから、お前さんも神殿に参拝でもしていったらどうだ？」
「それじゃあ折角だから行ってみようか。
　ところで冒険者じゃないようなって、どうしてそう思ったんだい？」

適当に受け流しつつ、気になったことを尋ねた。

「ほら、あんたらみたいなのだと、あまり良い格好してないだろ？
　そいつらは、何となく綺麗な服…ってか、清潔っていうのか？アレ。
　とにかくそんな服着てたんだよ。だから明らかに違うなーってな？」
「ふーん。そうなのか。
　冒険者じゃないとすると、なんだろうなぁ？
　とりあえず、あんまり関係なさそうだし、当座平穏なんだな。
　それじゃあ暫くここを基点に、観光がてら探索でもしてみようか
　面白いモノとか見つかるとか、あるといいな」

私は十中八九、それがレゲンシュルムの科学者連中だと確信した。
が、ここから変な情報が流れていかないとも限らない。
私はとぼけて、珍しいモノ好きな冒険者を装った。
（まぁ、珍しいモノが好きなのは本当ではあるが）

ところが、案内人の男から思いも寄らない情報を得ることが出来た。

「そんなに珍しいモノなんてないぞ？ここは。
　まぁ…珍しいモノっていったら、ベインスだと変な石が最近馬鹿売れしていると聴くけどな」
「変な石？」
「あぁ。色の綺麗な鉱石なんだが、それを沢山買い取っていく一団が居るらしいんだ。
　魔除けとか、飾り物に加工していたと聴いたことがあるな。俺は見たこと無いけど」
「それの何処が変なんだい？色のついた鉱石なんて珍しいモノでもないだろうし」
「それがな？機械…とか言うんだっけ？最近隣の国からたまに持ち込まれるようになったんだが、
　それの調子を狂わすだとかいうらしくて、採掘が困難なんだそうな。
　だから人の手で採掘して、人の手で運ぶっていうんで、
　それに着手してるヤツは、結構な高給取りになったらしい」

…機械を持ち込む…ってのも、多分レゲンシュルムの奴らだろうか？
私はそう考え倦ねていると、

「あー念のため言っとくけど、それに手を出しちゃダメだぜ？
　盗掘とか仮にやったら指全部落とされるとかって、もっぱらの噂だからな」

と、釘を刺されてしまった。
「珍しいってんだったら、一度お目にかかってみたいとか思ったんだけどなぁ」
そうぼやいてみる。まぁ見てみたいのも事実だ。

「見るぐらいならいけるんじゃないか？
　俺らが知ってるぐらいだし、秘密でも何でもないだろうさ。
　要は買い手が既に決まってるから、勝手な持出を禁じているってことだから。
　むしろ見つけた現物を持ち込んだら、金一封が出るって噂だぜ」
「ほほー。んじゃあとりあえず様子見で先にそっち行ってみるか。
　親切に色々教えてくれて助かったよ。これは少ないけど礼だよ」

私はそう言うと、案内人の男に銀貨を１０枚程握らせた。

「へへ。こっちもこれが仕事だからな。あんたにフレイヤの御加護を」

案内人の祈りの声を背に、私はとりあえず首都ラヘルを通り過ぎることを決めた。
相手がこちらの事を知ってるとは限らないが、
それとおぼしき一団がこのラヘルに居るという事実があるとするならば、
来て早々あからさまな動きをして、目を付けられるのも癪な話だからだ。

神殿とは逆…町の南門を何となくくぐり、私はベインスへと向かうことにした。

＊　　　＊　　　＊

考えてみれば道を聞くのを忘れていた。
気づいたのは町を出て南下して暫く立った後のことだった。

しかし、一度ラヘルに戻って案内人の男に聴くのも少々バツが悪い。
行き交う人も無いので、人に聴くことも出来そうにない。
恥ずかしいが、戻ろうか…そう思った時だった。
視界の中に大きな吊り橋が、そしてその先から煙が立ち上ってるのが見えた。
何者かがそこに居るらしい。私はとりあえずそこに向かってみることにした。

＊　　　＊　　　＊

視界に吊り橋をおさめつつ進む。
吊り橋は荒野を吹き荒れる強い風を受け、大きく揺れているように思えた。
暫く歩き続けると、吊り橋の下に辿り着いた。
そしてそこに一人の男が倒れているのが見て取れた。
私は慌てて駆け寄る。

「おい！大丈夫かっ！！」

返事はない。ただ男は呻くのみ。
しかし、身体に触れたとたん、

「ぐぅぅぅぁうう！」

唸るような声を上げ悶え始めた。
しかしその身体は思うように動かない。
よく見ればその足はあらぬ方向へ曲がっていた。
そこで初めて気がついた。この男は上の吊り橋から堕ちてきたのだ。

見上げれば吊り橋は地面から高さ１０ｍを超えているようだ。
ここからそのまま落ちてきたのであれば、無事では済まない。
しかし、足から落ちてきたのか、身体は酷い打撲だけで済んでいるようだ。

私はヒールクリップを付けると、癒しの力を何度もこの男に行使した。
暫くすると、男は気を取り戻したようだった。

「ありがとう…まさか、落とされるとは。これも神…………………」

後半が呟き混じりで、良く聞き取れなかった。とりあえず尋ねてみることにする。

「あの高さから落ちて…多分足折れてると思いますが、それで済んだのは奇跡ですよ。
　私のこの癒しの力では、傷や痛みを和らげる事はできますが、
　骨折は治せませんから…ラヘルまで背負いましょうか…？」

重傷人が居る以上、恥ずかしいとか言っていられない。
ラヘルに連れ戻って、適切な処置をするのが無難だろうと考えたのだ。しかし…

「あ、い…いや。私はラヘルには、帰れない。
　訳あってあの…」

といって、男は崖の上を指指す。

「場所で生活しているのだ。
　しかし、この足では生きていくことままならぬ…
　見たことの無い風体だが…貴方、名をなんと…？」

帰れない訳。罪人か、追われる身か。
どのような立場にあるか、判らなかったが、
ものの言い方などから悪人ではないと思った。

「あぁ、申し遅れました。
　私、フェン＝ガルーダインという、しがない旅人ですよ。
　観光がてら、この国に来てみた次第です」
「観光！？…国境が開かれたのか！
　ということは…フレイヤ教の者ではないのか…」

相当の期間、隠遁生活を送っていたのだろう。
国がどう動いているか、知らなかったらしい。

「えぇ。私自身、信仰している神は…違いますが、
　主神は私の居た国ではオーディンです。
　まぁ、信仰せずとも恩恵は少なからず受けている感じではありますが」

オーディンという名を聴くと、驚きつつ、言葉を紡ぐ男。

「そちらの主神はオーディンか。
　そうか……我が神には既に見放されているが…
　他の神が私を救ってくれるのかもしれない…」

そう呟くと顔をあげ、私に向き直った。

「私はミールガルという。奇跡を信じてみたくなった。
　私を上まで…連れていってくれないか…？」

ベインスの状況を見に行こうと思った矢先に、拾ったミールガルと名乗る男。
図らずして、私はこの国の裏で起こった事件を知ることになるのだった。

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失われし者の幻影　～RO World Seeker Zwei～

第０話　生を受けし、偽りのモノ

フレイヤ大神殿聖域第３層の、とある一室…
聖域と言われている、神聖な区域には不釣り合いな、
大仰な機械が所狭しと並べられている。

その中央には、緑色の光を放つ大きな球体。
紛う事なき、レゲンシュルム研究所で開発された人造ユミルの心臓。
神より使わされし、無限の力。
真なる欠片より、その製法を得、
限定的にとはいえ人は、その膨大な力を自在に使えるようになった。

その時の開発者であり、大賢者バルムントと呼ばれる存在は、
自身でこの力を驚くべき成果と謳い、
また研究を進めることで更なる不幸を喚ぶとして、研究から手を引き姿を消した。

研究者達は、この無限の力の使い道を考えようと研究を引き継ぎ、
結果的にこの研究は軍事目的として利用されることになった。

当時の開発者は、死んだか、隠れ住んだかの差はあれど、既に口を閉ざしている。
今の開発者は、これが良いものだと考えている者と、
全てを変える力を持っている、権力のようなものと考えている者と、
そして、これで我が身の保身を使用と考えている者…それぞれ様々な思惑で力を使っている。

そして、この場には一人の男が居た。
此処では『彼』と呼称する。
彼はこれが『自分にとって良きモノで、自分が失ったモノを取り戻す力がある』
と考え、力に手を染めようとしていた。

実験成果の一例として…と銘打って行われた研究者達の売り込み作業…その内の一つ。
ドッペルゲンガーを生み出す所を目の当たりにした時、彼は一つの欲望を頭の中で思い浮かべた。

機動の仕組みは、時折たちよる研究者の会話を盗み聞きして知った。
揃えた機械の数々は、自らが此処のそれなりの立場があったが為、極秘に一式を運び込ませた。
そして今、全てが揃って此処に在る。

彼は教皇を巡る彼の件により、フレイヤ神の信仰に疑問を持ち始めた。
そして彼は『あの日』に、自らが信仰するフレイヤ神は、居ないことを悟った。
だからこそ、自らの欲望を肯定し、更なる原罪に手を染めようとこの計画を始めたのだった。


しかし……再び神に裏切られる事象を体現することになろうとは、彼は全く思っていなかった。


文字通り彼は全てを失い、神殿を追われる事となった。
後始末も出来ず、自らが得たい者も置き去りに。
まだ、『彼女』は聖域内を闊歩したままなのである。

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首都たるラヘル…
従順なる教徒は、天帝フレイヤに拝する顔を隠し生きる。
その御使いであるとされる、オッドアイ・白髪の者を国内より探し出し、
７歳の誕生日を迎えた時、教団の象徴たる存在…教皇として据えられる。

しかし、今回の御使いには歴代教皇と異なる点があった。
それは、教皇である特徴をそれぞれが備えた、双子であったこと。

教皇とすべきは一人。
当時の教団関係者は、一方が御使いであり、
もう一方は我らを惑わす為の異教の存在、オーディンに連なる者として判断した。
どちらが異教の存在か、それは判らない。
誤って御使いを失うような事になっては、国にどんな災いが起こるか判らない。
やむなく７歳の誕生日までに、その判断を付け一人を選び、抹消することを決めたのだった。

双子がこの世界に生を受け、６年と８ヶ月の歳月が過ぎた。
あと４ヶ月。それまでに決断をしなければ…。教団関係者の中には焦りがあった。
未だオーディンに連なる者であるという、その兆しは見えない。

しかし、教団の中に不信心者が居た。

教皇をいただかなくとも、何も起こらないだろう。
腐敗しつづける教団内部の動きや、隣国からの干渉。
このような教団に何が出来るのか、必要性はあるのか。
こんな教団こそ、神罰もて消滅するのが正しい。彼はそう考えたのだ。

彼は有る意味で教団の熱烈な信仰者であったのかもしれない。

即位の儀まであと１ヶ月。
教団関係者の緊張も頂点にさしかかった時、
教皇候補の双子は誘拐された。

教団関係者は必死で双子を捜した。
しかし見つからないまま、即位の儀の当日を迎え…翌日。

神罰は起こらなかった。
誘拐をした彼は、出頭した。
無事に双子は発見された。
出頭した彼は狂信者として扱われ、そして粛清された。

体面上は教皇は建てる必要がある。
しかし、今回の一件で体面的に立てればいいだけで有ることが判ってしまった。
つまり、双子のどちらでも良い、と。
そこで、教団首脳部は…知恵のあまり回らない、扱い易い方を選んだ。

教皇の片割れ…賢い子は、贄として捧げられた。
フレイヤの収める地の中に居ながらにして、オーディンの加護を受けしモノの住まう地へ。

教団は表向きには敬虔なる信徒の総括者でありながら、
立場を利用し、怪しい動きを行う異端の者を内包するようになった。

暗に他国と共謀し、個人が力を求めようと画策し始めた。

光と闇。裏と表をひたすらに隠し続けている国が、
今の宗教国家アルナベルツ教国である。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フェン＝ガルーダインの手記
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宗教国家アルナベルツ教国の項

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凶風を祓う旅　～RO World Seeker～

最終話　祓われた凶風、続く旅路

「とりあえず、これが事の顛末ですかね。
　被害の拡大は…多分抑えられたと思います。
　最後まで、確認しきれなかったのは…少々不本意でしたが」
私はフィゲルに最終報告に来ていた。
眼前に居るのは、元レゲンシュルム研究所職員、ヘリコ。
「まぁ…報告を聴く限りだと、他にも暗躍している輩が居そうなものだが…
　それはそれで、また別に対応するしかあるまい。
　ともあれ、世話になったな。金にもならない事をさせてしまって」

ヘリコは私に右手を差し出してくる。
私はその手を取り、
「いや、死にそうにもなりましたけど…中々出来ない冒険でしたよ」
固く握手をした。

＊　　　＊　　　＊

事件はとりあえずの終息を見た。
私の投げつけた…ユミルの心臓の欠片は、
レジメンスの叩きつけるような剣圧により、即反応。
まばゆく輝く爆発を引き起こすことになった。

その際に発生した熱風は、レジメンスと私達を吹き飛ばした。
レジメンスは部屋の奥へ。
私達は…ティオーレが創り出したワープポータルの光の柱の中に。
再び私は全身に大火傷を負ったモノの…
ゲフェンの町中に生還することが出来たのだった。

だから、レジメンスの生死は、確認していない。
最後まで見届けられなかったから、万が一という可能性もあり得なくもないが…
あの爆発、瓦礫に埋まった通路、そして自我を無くしたあの様子では…
きっと地上に出ることは叶わないだろう。

＊　　　＊　　　＊

生還し、ティオーレにヒールをかけて貰い傷を癒した後、
私はこっぴどく説教を喰らった。
予告通りというか何というか。
とりあえず、あんまりフラフラするなというのと、
次何処かに行く時には連れて行けと、言うところで説教は落ち着いた。
「旦那が強くなりすぎると、一緒に経験が積めなくなるじゃないのよ」
そう言われたのを思い出し、次は私がティオーレを鍛えてやろう、そう考えたのだった。

そうしてティオーレは説教が終わると、疲れたから寝るーと言って、
旅館の方へと行ってしまった。
「じゃあ、その内誘うから、ゆっくりしてなよ」
私はそう言い、ティオーレの後ろ姿を見送った。

＊　　　＊　　　＊

なにげにゲフェンタワー横に、人が居るのが見えた。
近づいてみると、そこにいたのは霧矢だった。
「お、フェンさんだ。もしかすると終わったのか？」
「あぁ。とりあえず、かな。霧矢さんにも迷惑かけたね。
　その様子だとロプトは送り届けてくれたんだろう？ネンカラスのセミに聴いたよ」

先日プロンテラに立ち寄った時、既に霧矢はロプトの故郷、
アインブロックへ向け立った後だった。

「途中で襲撃にあったけどな、撃退してやった。
　なんか、やっぱりロプト狙ってたようだったんだが…
　なんか変だったんだよな」
「変って、何が？」
「ほら、フェンさん、秘密を知るロプトの排除を狙ってくるかもとか言ってたじゃない？
　それが、殺しに来てるというよりは、捕らえに来てる感じだったんだよな」
確かにそれは妙な話だ。
「確かに変だな…？」
「だろ？まぁ、無事にアインブロックまで送り届けたがな」
「その点は、霧矢さんに頼んで正解だったみたいだな。
　その襲撃者が何者なのか…気にはなるんだが、
　とりあえず、事の内容はまた後で。これから報告に行かなきゃいけないんだ」
襲撃のタイミングからして、SOS機関の残党とは違うらしい。
あの段階で既に組織には、使える手駒があまりなかったはずだ。
何者か？疑問は残るが、それも含め報告に立つことにした。
「どこまで行くんだい？」
「…とりあえず、ジュノー、かな？」
「んじゃそんなに時間かからないな。気長に待つとするよ。
　気をつけて行ってきな。その代わり帰ってきたら酒でも交えつつ聴かせてくれ」
「ああ。判った。また後で」
私は霧矢に手を振りつつ、イズルードへと向かった。
そこから飛行船でジュノーへと向かう為だ。

＊　　　＊　　　＊

飛行船発着所から首尾良く乗り込み、暫く空の旅を楽しむ。と、
「フェンさん」
突然背後から女性の声がした。
振り向くが、そこには誰もいない。
しかし、気配だけはそこにある。
「雅煉さんか。脱出できたのか、よかった」
直ぐに気がついた。クローキングで隠れていたのだ。
「任務は失敗。
　だけれど最後まで任務はやりとげ、生き延びた事で、認めて貰えたようだ。
　大手を振って冒険者として、任務を離れた動きが出来る」
「あぁ、それはよかったな。
　でも、雅煉さんとやり合うのはこりごりだな。
　手数だけでは勝てる気がしない」
と、私が呟くと、雅煉は憮然とした態度で（姿が見えないのだが、何となく判った）
「それでもフェンさんは私に勝ったじゃないか。
　私はこれからも貴方を追いかけるから。覚悟していてもらえると、助かる」
と言った。
「手合わせなら、後でいくらでも受けるさ。
　今回のような…陰謀の中での死合は、勘弁願いたいと言ったところだよ」
あんな時では、手加減の余裕すらなくなる。
なまじ実力が拮抗しそうな相手だから、なおさらだ。
「解った。ではその時は……」
そう聞こえると、雅煉の気配はふっとその場から消えた。
「ふー……」
妙な緊張感。思わず息をつく。
と、再び気配が戻ってくる。
「んっ！？」
「そうそう、フェンさん。詰めが甘かったよ。
　あの工場の入口とか、残ったSwordianとか、私の手で潰しておいたから。
　これで、貸し借り無し、ということで」
そしてまた気配が消える。

そうだった。脱出に精一杯で、入口などは全く隠蔽すらしていなかった。
これは、ホントに雅煉に借りを作ってしまったな。
心の中で感謝しつつ、空を眺める。

『次は賢者の都市、ジュノーです』

しばしの後、艦内アナウンスが流れた。
私は着陸を待って、ジュノーの街へと降りた。

＊　　　＊　　　＊

セージキャッスル隣、大統領官邸。
扉を開けると、いつものように秘書ヘスアニルがそこにいた。
「例の件、とりあえず終息に向かいました。
　大統領に取り次いで貰えますか？」
「お疲れ様でした。ご案内します。
　どうぞこちらへ」
いつもの簡素なやりとりを経、部屋の中へと通された。

中には大統領、そして側仕えに…見たことのある女聖堂騎士、テーミスが居た。
「良く来たな。そしてご苦労だった。して…顛末はどうなった？」
相変わらず遠回しの会話が嫌いな大統領だ。
反してテーミスは沈黙を守ったまま。相変わらずお堅いらしい。
私も何となく、お堅く言ってみることにした。
「そこにいらっしゃるテーミス聖堂騎士殿の情報を元に、
　ルーンミッドガッツ領内に存在した３つの拠点、全て排しました。
　敵の手には人心を惑わし、同士討ちをさせる武具があり、
　多分ですが…それらも全て、闇に葬られたものと思われます」

雅煉の工作が確かならば、だが…まぁ万が一の時はその時だ。

「ふむ…その研究に関連する資料などは…無かったか？」
「…？　いえ。残念ながら…。
　あったのかもしれませんが、爆発に巻き込まれ…
　それを確認する術がありませんでした」

妙なことを聴く。よもやその研究を用いて何かしようとしていたのでは？
そういった邪推が私の頭をよぎったが、違った。

「我々騎士団も国内を色々と捜索していたのだ。
　その過程で…一人の、囚われていた剣士を見つけたのだ」
黙っていたテーミスが口を開いた。
「その剣士は…今も昏睡状況にある。
　捕らえていた者達を審問にかけたところ、Science of Supremacyという一味で、
　つまりはレゲンシュルム研究所から逃げ出した、研究チームの一員だったのだ。
　なにか、特殊な手法で意識を失わされ、それでもまた生かされている。
　彼を目覚めさせる方法が…そちらで手にはいるかもと期待していたのだが。残念だ」

なるほど。Swordianの本体は、シュヴァルツヴァルドにあったのか。

「多分その人物が、人心を操る手法の核である存在だったのでしょう。
　とはいえ、彼も被害者…もしも何か手がかりを見つけたらお伝えしますよ」
「よろしく頼む、フェン殿」
テーミスはそう言うと、また大統領の控えに戻った。

「それでは、これで全て終わったと言うことなのかな」
大統領は私を見据え言う。
「いいえ。残念ながら既に種は蒔かれている様子なのです。
　私は彼らの蒔いたモノから得られる収穫の一つである、人心を操る剣を封じました。
　しかし、今回の事件の首謀者、レジメンスよりこんな台詞を聞きました」

すると、大統領は目を見開き言った。
「何！？レジメンスだと！」
「ご存じなのですか…？」
「あぁ…彼は腕の良い研究者だった。
　しかし、酷く劣等感を持つところがあり…
　いつだったか私は叱咤激励するつもりで叱ったのだ。
　その後失踪したが…レゲンシュルム研究所に居て…なおかつこのような…」
「「それは初耳です、大統領」」
私とテーミスの声が重なった。
だから…あの時大統領を跪かせてやると言ったのだ。きっと…

私は一息ついて言った。
「とりあえず、続けてよろしいでしょうか？」
「あぁ、頼む」
「『シュヴァルツヴァルド共和国の更なる西方。
　　宗教国家アルナベルツ教国がある。そこからのオーダーだ』とも、
　『他の奴等のユミルの心臓を用いた研究に、私が劣る事になる』とも言っていました」
「なるほど…アルナベルツか。今国境の関は封じてあるが…
　何かを持ち込む気になれば、できるようなものだろうな…」

魔法などで物を持ち込むなんて、朝飯前だろう。

「えぇ。そしてレジメンス以外にも、動いている輩は存在するとも、推測されます」
「ふむ……して、私は何をすればよいのかな？」

私が期待をしている質問が来た。
それに対して、私は準備していた答えを返した。

「では…恐れながら……
　国境を開放してください」
「なにっ！？」
「国境だけではありません。空路も解放してください」
「…流石にフェン殿。それは危険ではないのか？」
テーミスが不安げな顔色で私に問いかける。
「して…それの意図する所は？」
大統領もいつになく真剣な面持ちで私を見ている。
「閉鎖したままでは、相手の出方が全く解りません。
　勿論開放することで、輸出入、物品の流入出が自由になるという弊害はありますが…
　私のような冒険者が、あの国をもかき回せば…
　なにか、見えてくるかも知れません」
「ふむ……」
「フェン殿。彼の国は我々とはまた別の信仰を持っている宗教国家。
　確かに閉鎖的故…見えない部分が多い。
　噂に寄れば…盲信的な者が多いという。
　国境を開けば、そのような輩がこちらに流れてこないとも限らない。
　それは…難しいと…」
テーミスはもっともな意見を言う。しかしその意見を遮るように大統領は決断した。
「いや、テーミス。
　既にそのような輩は手引きを受け、既にこちらに来ている可能性が高い。
　同様に禁じている物品の流出入も、裏で行われている可能性も高い。
　なれば、こちらから状況を調べる方法を閉ざし続ける道理は、無いだろう」
「しかし…」

大統領とテーミスのやりとりを、私は無言で眺める。そして、

「解った。国境を開こう。飛行船の航路も開設しよう。
　それでいいか？」
「ありがとうございます」

私は深く礼をした。

「ところで、また何かあった時は、頼んで良いか？」
私は二つ返事で、
「いつでも。
　新たな冒険の舞台を開いて貰えた代償と考えても、安いぐらいですから」
「ふ、ふはははは。
　やはりそういう事か」
「えぇ、そういう事です」
私と大統領の笑い声の中、テーミスだけが良くわからないといった表情を浮かべていた。

＊　　　＊　　　＊

とりあえず、このような流れをヘリコに説明したのだ。
握手を交わし終え、
「それじゃあ、そろそろ行ってみます」
別れの言葉を発した時、ちょっと待てと、私を呼び止めた。
「報酬…と言うよりは、怪我の治療に使って欲しい。
　せめてもの気持ちだ」
そう言うとヘリコは、戸棚から身の詰まった黄色の果実…
イグドラシルの実を取り出した。
「儂が昔研究をやっていた頃…そのテーマが、
　『如何にして世界樹は人の身体を癒すのか』というもので…
　まぁ、その時の秘蔵のモノだ。
　結局その謎は解き明かせなかった訳だが…もう儂は使う機会も無い。
　まだ怪我があるようなら、それで癒すと良い」
「それでは、ありがたく頂きますよ」

私はイグドラシルの実を受け取ると、それをリュックに詰めた。

「では、これで今度こそ、ひとまず終わりです。
　何か…動きがあった時には、また何か聴きに来ることもあるでしょうが…」
「うむ。儂で解ることなら、教えようぞ。
　いつでも遊びに来てくれ。
　何気に、今聴かされた冒険談は…面白かったぞ？」
「ははは。では、また」
私は礼をしつつ、ヘリコの滞在している部屋を出た。

＊　　　＊　　　＊

せっかくの実だ。まだ昏睡状態のカルミラに与えるのが良いんだろうが…
まずは礼人に連絡だ。見つけたら譲ると言う約束をしていたから。
私の足はプロンテラへ向いていた。

＊　　　＊　　　＊

「礼人さん、は…っと、あ、居た居た。おーい」
「お、フェンさんだ。その様子だと…」
言われてリュックからイグドラシルの実を取り出す。
「おぉぉ。こいつは中々良さそうな実じゃあないか。
　一応聴くけれど、いくらで譲ってくれる？」

…私は少し考えて、
「１０万ゼニー、か」
「えぇぇぇ！？冗談だろっ？」

何となくからかってみる。そして…

「あぁ。冗談だよ。１０００ゼニーでいいや」
「へ……？冗談っ！？」
「いや、どうせこれはウィヨさんが買うんだろう？
　だったら…迷惑料も込みでこんなもんだろう。
　あ、私から買ったなんて言うなよ？」

私ははじめからただ同然で譲るつもりで居た。
怪我させるわ、意識失わせるわ、
私自身かなりウィヨルドの件では迷惑をかけたから。

「そうかー……それじゃ、毎度ありー」

私の左手に１０００ゼニーを掴ませると、
私の右手にあるイグドラシルの実をパッと持って行く。

「じゃあ、早速売ってくるかな。多分今日も裏路地に居ると思うし」
「私も着いていこう」

礼人の後を追いつつ、私は裏路地へと入っていった。

＊　　　＊　　　＊

「あ、フェンさん。こんにちわー。
　その様子だと、無事に終わったの…かな？」
「ウィヨー実はね…」
「聴いて驚け！礼人さんがイグドラシルの実を仕入れてきたぞっ」

私が持ってきたと言わせない為に、大声で大げさに手に入れた事をウィヨルドに伝える。
礼人は、あちゃー…っという表情を浮かべつつ、カートから実を取り出す。

「んじゃ、いくらで買う？」
「相場いくらぐらいなのよ？」
「相場は大体２万ゼニー前後かなー」

さらに脇で嘘相場を公開してみる、意地悪な私。

「フェンさんってばっ！営業妨害しないで貰えないかなー？」

どうやらあくまで良い値で売りたいらしい。
「２万ぐらいなら…何とか出せるわね…」
既に２万で買う気満々のウィヨルド。
そこで礼人の耳元で囁いてみる。
（元値１０００ゼニーだろう…？
　１９０００ゼニーも儲かるんだから…あんまり欲は張るなよ。
　私としてもあまりウィヨさんに、負担かけたくないんだ）

礼人は渋い顔をしつつ……
「わかった。２万でいいよっ！」
半ば投げやりにイグドラシルの実をウィヨルドに手渡した。
「礼、助かるわ。これでカルミラが助かるのよね…？」
礼人に２万ゼニーを手渡しつつ呟くウィヨルド。
「そう言えば、カルミラの容態は？」
「見て…？まだ寝てるのよ…でもきっとこれで！」

ウィヨルドは傍らに横たわったままのカルミラの為に、
イグドラシルの実を搾り、器に集めた。

その一部始終を私、礼人、そして裏路地に住む子供達がそれを見守る…
そしてウィヨルドは…その果汁をカルミラの口に含ませた。
すると……

「あ、ウィヨルドねえちゃんだ……おはよ」

裏路地は子供達の明るい歓声に包まれたのだった。


＊　　　＊　　　＊


新たな冒険の舞台を得、私の旅はまだまだ終わらない…




凶風を祓う旅　～RO World Seeker～　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　fin


















～Cast～
登場順・敬称略
【Player Character】
　フェン＝ガルーダイン
　テーミス
　霧矢
　ロキ→ロプト
　ウィヨルド
　礼人
　雅煉
　ティオーレ

【Non Player Character】
　ヘリコ
　秘書ヘスアニル
　カール・テオドール・ワイエルストラウス
　セミ
　オルタンド（トーランド・トードナル）
　ホドラム
　サムス
　名も無きウィザード
　名も無きナイト
　名も無きアサシン
　スノトラ
　ヴァリ
　ヴィダル
　名も無きアルデバランプラントの研究員達
　コムサール
　カルミラ
　ソリン
　沢山の名も無きSwordian使い達
　レジメンス

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凶風を祓う旅　～RO World Seeker～

第１７話　過ぎた力の代償

準備は整った。
「まてっ！」
私は大声を上げた。
「何っ！？貴様、何故生きている！
　まあ…いい…もう会うこともあるまい」
左手で傍らの袋を、右手でポケットから何かをとりだそうと…

その動きを予見して、私はベナムナイフをその何かに向けて投げつけた！

ドズッ
「うわっ！！」

狙い通り、投げつけたベナムナイフは、幹部の手の中にある蝶の羽を貫き、壁に突き刺さった。
蝶の羽は、貫いたナイフの勢いと、それを握りしめていた握力で千切れてしまった。

毎度の如く蝶の羽で逃げられては敵わない。
用事を済ませれば、若しくはどうせ逃げると考えていたので、
何らかの方法で蝶の羽を損ねてやろうと思っていた。
取り出す手元を狙ってナイフを投げつける作戦は大成功だった。
複数枚持っているという可能性も否定は出来なかったが、
その狼狽ぶりから、今のが最後の１枚だということは明らかだった。

「なんと言うことだ…」
「いつもいつも、逃げられるだなんて思うな。
　毎回追いかける身にもなってみろよ…まったく。
　とりあえず、準備不足が祟ったようだな」
「これで袋の鼠ってやつかな？」
「何故プリースト……一人で来たのでは…？
　そうか貴様、喚べたのか。それで生き延びたと……」
「それだけじゃないがね。幸運が重なったんだ」
「なるほど……じゃあ私は貴様らをどうにかしなければ、
　この場から立ち去ることすらできない、そう言いたい訳か」

不穏な自信を見せる幹部。
まだなにか、私が見落としている切り札があるというのか。
しかし、それに臆したところで状況が変わるはずもない。

「そうだ。それに私はお前…と違って、準備が良いんでね。
　蝶の羽は５つ持ちあるっている。私を倒せれば帰れるかもしれないぞ？」
更に煽ってみる。
しかし、それを聴いて幹部はにやりと笑った。
「それを聴いて安心した。
　倒せば、帰れる。シンプルでいいな。ではそうさせて貰おう」

幹部は壁に掛けてあった２本の剣…これもSwordianだった…
その内の１本をおもむろに掴んだ！

「えっ！！」
「アレって掴んだら操られるんだよね！？」
「そうなるはず…」
私達は自らの意志でSwordianを取った男に驚愕した。しかし、
「ふふふ。何を驚いている？
　それでは、帰らせて貰おうか！」
そう言いながら薙いだ一閃は、今までのSwordian使いの中でも特に鋭かった。
そしてそれ以上に、自らの意志を保っていることに更に驚かされた。

「うわっと！…何故！？自我を保っていられる！」
「流石にそこまでは知らなかったようだな。
　発信器を持っている者は、Swordianの剣の技量はそのままに、
　意識を乗っ取られる事はなくなるのだ。
　勿論皆にはそれをさせないように、触らせないよう示唆させていたが。
　ふふふ…開発者たる、私しか知らない秘密だ」
「開発者……？もしや、レジメンス、か？」
「いかにも。私がレジメンスだ。
　どこでその名を知った？」
「レゲンシュルム研究所の隠し部屋。
　そこにあった隠し棚等から得た情報に…あんたの名が記されていた」

あの記録を書いていた男が、こいつか。
こいつの発案があって、今までの悲劇を生んでいたということになる。

「…なるほど、そういえば回収を忘れていた、か……
　それを手がかりに追ってくるとは…流石に想像の範囲外だった。
　ともあれそれを読んだのならば…
　私の研究で意図する部分も何となく想像できるだろう？」
「…倒しても倒しても、新たに味方の内から現れる敵、か」
「うわ。それって最悪かも……」
「そうだ。１０人にこれを持たせて戦地に向かわせれば、
　１０人の兵は１人として減ることなく、相手を打ち破るだろう。
　メンバーの入れ替えはあれども、時間も多少かかろうとも、
　最終的にはこの兵器は戦いを終焉へと導いてくれる」
「そんな戦いが、今どこで起きているっていうんだ！」

少なくとも、ルーンミッドガッツ王国とシュヴァルツヴァルド共和国は、
表面上は同盟…とまではいかずとも、不可侵ならびに協力体制にはある。
そして、大統領自身もそのような事にはさせないとも言及している。
ならば…未開の地？まさか…？

「不思議そうな顔をしているな。折角だから教えてやろう。
　シュヴァルツヴァルド共和国の更なる西方。
　宗教国家アルナベルツ教国がある。今は国境が閉ざされているがな。
　そこからのオーダーだ」

閉鎖的な国であるが故、殆ど情報が入ってこない国。
秘密裏に何をやっていても、確かに不思議ではない。

「私は今回の結果を持ち帰り、名誉と報酬をアルナベルツ教国から得る。
　そしてまたユミルの心臓を用いた、新たな研究をするつもりだ。
　力の源、無から有を生み出すなど、素晴らしい研究ではないか」
「研究は確かにすばらしい。けれどその力の向け方が誤ってる！」
「無から有を出せるんだったら、もっと良いことが出来るはずなのに。
　お菓子とか…ケーキとかが…」
私とティオーレは口々に（片方は何処か違う）異論を挟んだ。しかし、
「それは偽善者の戯言というものだ。
　それに……力というものは、振るってこそ力ではないか！」
そう言うと、幹部……レジメンスは小さく呟いた。
その刹那、Swordianが紅蓮の炎を放った。
「うぉっ！属性付与…？！ってことは…」
「そうだ。私は研究者だが、プロフェッサー…それも実戦派として、
　未だ一線で戦っているのだ。だから…剣の心得も当然…あるっ！」
レジメンスは燃えるSwordianを振りかざし、袈裟斬りを放つ！

ガァン！！
ドォン！！！

けたたましく響く金属音と、炸裂音。
「私だけじゃ絶対無理だな、こりゃ…」
「今のがソウルブレイカー…なのか？」

私はレジメンスの一撃を、ティオーレに予めかけて貰っていたキリエエレイソンで凌ぎ、
接敵時にゼロブレイカーを放つ作戦に出た。
しかし敵もさることながら、突き出されたフォーチュンソードをすんでの所で避け、
魔法的な威力は喰らったものの、その直撃を免れた。
しかし、その威力にレジメンスも流石に驚いたらしい。慌てて間合いを取る。

ティオーレもその様子を見て、既にキリエエレイソンの重ねがけの詠唱に入っている。
直撃さえ耐えられれば、それは大きな隙が敵に出来ることになる。
喰らいながらのカウンター。タイミング良く支援を貰えるからこそ、
そして相手が一人しか居ないからこそ取れる作戦だ。

「だが、それならそれで、近づけさせなければ良いだけのこと。
　もがく程絡め取られる、魔力の糸を受けて見ろ！」
レジメンスは自由な左手、その指先を私達に向けると、
そこから白い糸が放たれる！
糸は網状になり、私達に覆い被さってくる。
「くっ」
「あー！なんなのよこれー！？」
フォーチュンソードで斬ろうとするが、粘ついて中々切れそうもない。
ティオに至っては杖を振り回すが、既に右腕を絡め取られつつある。

私も現実に見るのは初めてだったのだが、
これはプロフェッサーのスパイダーウェブという、
相手の動きの自由を奪う魔法だった。
かけられた者は、糸が引火性のものらしく、火属性での攻撃を受けると、
更なるダメージを負わされることになる。

奴の持っている武器も、今は火属性。
動きを封じられつつの大きな一撃を食らい続けるのは、
後ろにティオーレが控えているとはいえ、じり貧になってしまう。
こうなったら…！

「とりあえず、これで燃えて貰おうか」
「すまんティオ！耐えてくれ！」
「え！？何？？？」

私はハイディングで隠れ、爆炎のカタールに持ち替えた！
間髪入れずグリムトゥースを放ち続ける！
多分地上には、レジメンス目掛けて炎に包まれた大地の槍が穿たれていることだろう。

アサシンの使う四属性のカタールには、
それぞれ相手の行動を阻害する能力が付与されており、
私が取りだした爆炎のカタールには、相手の行使できる技を阻害する能力があるのだ。
当たっていれば……奴の力の大半を削ぐことが出来るはず…
そう思いつつ、私は姿を現した。

「熱いってば！！何すんのよ！」
地上に戻った私に、ティオーレは罵声を浴びせた。
炎にその身を焼かれながら、必死で自分にヒールを行って耐えていた。

「悪い。でも奴の魔法を封じるにはあのタイミングではアレしか…」
そう言いながら、燃え尽きつつある糸からティオーレを引きずり出す。
そしてその肝心のレジメンスはというと…

「くっ…此処で魔法を封じられるとは…」
どうやら私の試みは成功していたらしい。
歯噛みをしつつ、私を睨む。
「とりあえず、これであんたの打つ手は無いんじゃないか？
　こっちは回復が飛ぶ間はあんたに負ける事はない。
　そのうちフレイムランチャーの効果も切れるだろうし。」

「それは貴様だって同じだろう！」
苛立ちからか、怒鳴るレジメンス。そんな奴に私は言う。
「判ってないな。
　私がこの爆炎のカタールで攻撃している間は、ずっと魔法は使えないまま。
　技量が仮に私よりも高かろうが、さっきも言ったように支援のある私は、負けない」
「ぐ……む………」
「大人しく投降しなよ。
　無益な殺生は、私自身好む所じゃないんだ。
　もっとも、牢獄暮らしにはなると思うが、な…？」

冒険者の類の犯罪者は、元々特異な能力を持ってる連中だけに、
その能力が使えない結界の中に閉じこめられる。
つまりは、捕らえられたら何かしらの手引きでも無い限り…
外に出ることは叶わないのだ。
それを察したのか、レジメンスは、

「それでは、私の研究が続けられ無くなるではないか！
　他の奴等のユミルの心臓を用いた研究に、私が劣る事になるではないか！
　私は、これからも、人心を操り、我が意のままに、使うのだ！
　大した力もなく、権力を得、私を蔑んだ、カールの奴を、
　いつか、跪かせる為に、なっ！！」

言葉尻も怪しく、壁にかけられていたもう一本のSwordianへ向け駆け出す！
「旦那っ！止めないとっ！！」
「しまったっ！」
あんなモノを二本も持たされたら……。
二刀流を用いている私ら暗殺者にとって、
一撃の威力が跳ね上がる、二刀流の危険性は良く判る。

慌てて私はベナムナイフを投げつけ…命中させるも、
レジメンスは呻きもせずSwordianを掴む！

その瞬間

ポフッ
「グォオオァアアアアガガガガアアァーーーーッ！！」

レジメンスが着けていた…襟元の発信器が、小さな音を立て爆発し…
レジメンスはこの世の者とも思えないほどの絶叫を上げ、
二本のSwordianを床に叩きつけた！

ドゴンッ！

床が激しく陥没する！
その威力はすさまじいモノだ。

「だ、旦那！何が起きてるのよっ！？」
「……きっと、この発信器…１本のSwordianの制御で精一杯なんだ。
　逆上した奴が２本持ってしまったから…」
「…大暴走？」
「そう、だと思う。とにかく危険だ！
　ポータル、出せるかっ！？」
「いいのっ？」
「あぁ、アレでは…手が付けられそうにない。
　勝手に自滅して……いかん！こっちに来るぞっ！」

Swordianは敵を倒すべく作られたモノ。
そして衝動に突き動かされた暴走中の奴にとって…
動く者はすべからず敵なのだろう。
凄まじい勢いでレジメンスは間合いを詰めてくる。
異常な不可が掛かっているのだろう。
見える足、腕には異様なほどに血管が浮き出て、
一部からは血を流してもいる。

「まだかっ！」
「もう少しっ！」
「くっ…何か無いの…」

無駄と思いつつ、自らの懐を探る。
と、固い何かが指先に触れた。
これだ！
私はそれを掴み、レジメンス目掛けて投げつけた！！

そして私の視界は、見たことのある白い世界に包まれた………

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